第44話 王都動乱 その1
デックス達の話から得た情報を元に出た必要な旅道具などは、式の後か次の町あたりで揃えればいいだろうということで、冒険者ギルドでの話を終えた俺たちはあの後すぐに宿へと戻り休息をとることにした。
そして翌日。
国王の葬儀と、テオドール王子が正式に国王として周知されることとなる式の日を迎えた。
俺たちはジューダスに伴われてカーナ教会の大聖堂へと足を運び、葬儀へと参列した。この国では一般的な葬儀の形式はカーナ教が主流らしく、やはり世界最大の宗教であることを実感することにもなった。
国王の葬儀と新王の誕生。
個人的には服喪と新王の王位継承式を同日にやることに多少違和感はあったが、ジューダス曰く、「悲しみを乗り越え次代へと繋ぐ象徴としての式」という、ある種二つ合わせて一つの式……といった意味合いらしい。ここに関しては俺の感覚が前世に引きずられているだけということにした。
そうして葬儀が終わり、いよいよ王位継承の式典がローゼン中央にある大広場にて執り行われることになる。ここで広く国民に周知された後、改めて王城内にて戴冠式が行われるといった日程だ。
臣下である俺たちは今こうして、式台の近くに参列して次代の王の登場を今か今かと待っている状況だった。
そして──。
「き、来ました!」
エミリアの言葉につられて前の方を見ると、テオドール王子……もとい次期国王がゆっくりと現れた。近くには妹であるシンシアの姿と、王妃であるクリストリアの姿もある。
(五年前とは別人のようだな)
かつて、魔道具の紹介のために訪れた際にあったときはお互いに子供だった俺とテオドール、そしてシンシアだったが、今やテオドールは大人の顔つきに。シンシアも、まだあどけなさを少しばかり残しながらも綺麗な女性へと成長していた。
そんな俺の感想をよそにテオドールはゆっくりと広場の中央に設けられた台の壇上へと上がっていく。俺を含めた国民は、その様子をじっと見守っていた。
「………」
壇上に上がったテオドールはゆっくりと辺りを見回し、そこに並ぶ溢れんばかりの民衆を見据えた。そして。
「親愛なる国民たちよ。此度はわが父、ランドルフ国王の葬儀に……そして私の王位継承式へと参列してくれたこと。心より感謝する」
「おぉ……テオドール様………」「立派になられて……」
テオドールの言葉に、俺たちの周りからはそんな言葉が聞こえ始めた。やはり彼の印象は国民から見ても良いらしい。
「わが父ランドルフは偉大な王であった。数多の戦を経て因縁ばかりが残る中央大陸諸国をまとめ、団結の意義を説き、そしてそれらを束ねる力を持った正に賢王と呼ぶに相応しい人だった」
その言葉に、テオドールの近くにいた家族や家臣たちも深く頷く。その中にはかつて手合わせしたダリア王国騎士団長のオレグ=フェルダンの姿もあった。
「私はまだかの父には遠く及ばない。しかし、私を支えてくれる臣下・国民、そして愛する家族達の下で必ずや王国に更なる繁栄をもたらすことをここに誓おう」
「テオドール国王陛下ばんざーい!」「陛下万歳!」
テオドールの言葉が終わると、広場は一斉に歓声が鳴り響く。ジューダスやマイナも大きく拍手をし、新国王の誕生を祝福しているようだった。
「それではこれより──……」
そうしてテオドールの傍に控えていた臣下が次の段取りについて説明を始めようとしたその時だった。
「そこまでだ! 愛しき祖国を陥れんとする逆賊どもめ!!!」
あまりに場違いな声が、後ろの方から響き渡った──。
▼
国を救う力を与える、と。あの男はそう言った。
俺はしがない国民の一人でしかないが、国を想う気持ちとかの偉大なランドルフ国王陛下を慕う気持ちでは誰にも負けていない。
だからこそ、うれしかった。
こんな無力なはずだった俺が、愛しい祖国を悪しき逆賊テオドールから救い出す力を得ることができるのだ。
「それで、どうすればいいんだ?」
俺は待ちきれないと言わんばかりにその男に方法を聞いた。
そんな俺の様子にコイツはクスリと笑いながら答える。
「こちらを」
「これは?」
そう言って手渡されたのは、白い水晶のようなものが結びつけられたペンダントだった。よくよく水晶の中に目を凝らしてみると、なにやら魔法式……だったか? それらしきものが見える。魔法には縁がないが、その独特の文様は見間違えようがなかった。
「これは魔兵器ってやつか? こんな小さいのか?」
「ふふふ。魔兵器なんて低俗なものと一緒にしないでいただきたいですね」
「するってぇとこれは……?」
俺がそう聞くと、男はニヤリと笑って答えた。
「神の力が刻まれた神具ですよ」
「神の……力?」
「えぇ」
にこりとそう言ってのける男。神の力? そんな胡散臭いものがこんなちっぽけなペンダントに本当にあるのか?
俺のそんな疑念を感じ取ってか、男は説明を始める。
「貴方ならわかるはずですよ。この神具に秘められた神聖な力の脈動が」
「あ、あぁ……そういわれてみると確かに何か感じるような……」
「そうでしょうとも。これを使えばあの逆賊を屠るだけの力を手に入れることが出来る」
「ど、どうやって使えばいいんだよ!」
俺が問いただすように男にそう聞くと、奴はさらりと言う。
「簡単です。貴方の持つ魔力をこのペンダントに注ぐだけです」
「魔力だ? おれぁ緑等級で……」
「関係ありません。どれだけ等級が低くても誰しもが僅かなりとも魔力をもっているのです。そしてこの神具があれば、たとえ緑等級の者であろうと、それこそ金等級の魔術師の如き力を授かることができるのです」
「そ、そうか……」
本来ならこんな話とてもじゃないが信じることはできない。
だが、あのテオドールが国王になるのを阻止するためには誰かが一石を投じなければいけないのだ。もし目の前の男の言ってることが大嘘で、この神具とやらに何の力がなかったとしても問題ない。俺が式の最中に声を上げ、民衆に目を覚ますように訴えるのだ。
そうすればきっと……
「大丈夫」
俺が思考の深みへとはまりそうなところに、そっと優しく声がかけられる。
「貴方が行動を起こせばきっと、貴方に賛同し、ついてきてくれるものがいる。古今東西、勇者と呼ばれた者たちは逆境から始まり、そしてやがて巨悪を倒すものでしょう?」
言外に、貴方がその勇者なのだ。と言わんばかりの様子で男がそう語りかけてくる。
悪い気はしない。それどころか、自信ばかりが溢れてくるようだ。
「や、やってやるぜ……! この俺が……!」
「えぇ、えぇ! 期待していますとも。私も陰ながら貴方を見守っていますよ」
「やれる……やれるんだ……」
「ふふふ……それでは私はこれで。英雄よ、次は変革の後の宴の席で会いましょう」
そう言って男はいずこかへと姿を消した。だがそんなことはどうでもいい。
「やれる、やれるんだ……俺ならやれる………」
もう俺は救国の英雄として称えられる自身の姿しか、想像していなかったのだから……。
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