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第40話 蠢(うごめ)きはじめる悪意

 ──それは、純白の石材が敷き詰められた、どこか神性ささえ感じさせる空間だった。


 部屋の中心には同じく白い石材によって作られたと思しき円卓が鎮座し、それを取り囲むようにして白いローブの者たちが座っている。

 皆仮面をかぶり、その正体は伺い知れない。


 すると、そのうちの一人が口を開いた。


「ダリアの王が没したらしいな」


 その言葉に反応し、他の者たちも口を開きはじめた。


「かの地の王は、我らが真の信仰を最後まで受け入れなかった。その王の影響力のせいか、中央大陸は未だ、神の御心に沿わぬ行いを続ける『魔術師とかいう輩』が蔓延っている」


 ある者は侮蔑を含んだ言葉を。


「然り。神より授けられし四の魔法。それを己が為に汚し、まして行使するなど到底許せぬ行いではない」


 ある者は怒りを孕んだ口調でそう言う。


 そして、そんな者たちを宥めるようにもう一人が口を開く。


「だが、その王も今はいない。ならば今こそ再び我らの信仰を示す機会だとは思わないか?」

「良い考えだ。確かかの王国は跡継ぎとして王の息子を立てたらしいが、しばらくは混乱と不安が続くだろう。そこに我らの信仰を与えてやればよい」


 とはいえ、とローブ姿の一人は続けた。


「ただ無策に信仰を広めるだけでは、また同じように妨害を受けかねん。いくら子供といえどかの王の子。油断すれば同じ轍を踏みかねないだろう」

「なればどうする?」

「ふむ……。おい、いるか」


 白いローブの男は、自分たち以外の何者かに向かってそう問いかける。

 すると、どこからともなく一人の男がその傍へと現れた。


「こちらに」

「貴様に問う。かの地に我らが信仰を広めるためにはどのようにすればよいと思う。好きに意見を述べよ」

「は………」


 そう問いかけられた男は、暫く悩む素振りをした後で口を開いた。


「今の、かの地の王が没したために起こった『不安と混乱』……、もしそれだけでは人々が我らの信仰を受け入れないというのであれば、やるべきことはただ一つ」


 そう言って、男は口元を吊り上げた。そこに込められた男の真意を察することはできない。そして口を開く。


「『更なる不安と混乱』を与えてやればよろしいのですよ………何故なら人は、絶望や恐怖の中に垂れ下がる救いの糸をこそ、己にとって唯一絶対であると信じたくなる生き物なのですから」

「ふむ」


 そんな男の表情を知ってか知らずか、白いローブの者たちは悩みはじめるが、しばらくして。


「よかろう。此度の()()()()を貴様に任せる。合わせて我らの名のもとに、()()()()を行使することを許可する。……やれるな?」


 そう問われた男は、恭しく一礼すると答えた。


「必ずや期待に応えて見せましょう。我ら『見えざる神の手(ネフィニアス)』の名において」


 その言葉に満足したのか、白いローブの男たちの姿はたちまち掻き消え、白い部屋の中には男一人が残された。


「ふ……くふっ………」


 そんな中、何処か狂気を孕んだ笑い声が室内に反響する。


「ふぅ……いけませんね。これは大切な、神のご意思を遍く全てに知らしめるための戦いなのだから」


 そんな一見恭しく見えるその言葉とは裏腹に、その口元は依然狂ったような笑みを携えている。


「さぁ……始めましょうか。()()()()()()()()()()かの地にもたらさんがために」


 その誰にも聞かれることのない男の呟きは、静寂が支配する空間に溶けていった。



 -----



「始まるのですね……」


 そこは先ほどとは違う、古びた石壁に覆われた空間。

 そしてそんな場所に似つかわしくない、どこか神秘さを纏う女の姿。


「どうかあの子に、あらゆる困難を乗り越えるための力と、そして信頼できる仲間が現れることを」


 それは、切なる願い。

 かの者が、世界の運命という名の……神のもたらす合理的で絶対的な理不尽に屈しないようにという、心からの願いだった。


 ──そう。


 これより舞台の幕があがる。


 神と、魔法と、世界と。


 あらゆるすべてを巻き込んで動き始める、運命という名の舞台の幕が。



 ~第2章 旅立ち編~ 完

これにて第2章が完結となりますー! ここまでお読み頂きありがとうございました。

ここからは本格的に物語が動き始める……予定です。

カイル達の物語がどのようなものになるのか、引き続きお楽しみいただければ幸いです。


また、面白いと感じて頂けましたら★評価やブクマ、ご意見ご感想等頂けますと幸いです。執筆の励みとさせて頂ければと思いますのでどうぞよろしくお願いいたします。

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