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第27話 見定める者 ~再戦~

 翌朝、いつものように目が覚めた。


 俺は手早く支度と、そして戦いの準備を行う。この五年苦楽を共にしてきた、ジューダスから渡された直剣……当時の俺の身体に合うサイズだったために、今は些か短くも感じるソレを入念に手入れする。

 旅の途中で装備を色々と変えてきたが、この直剣だけはよく手になじんでいたせいか、今日までずっと使い続けて来た。

 そしてその他にも幾つかの準備が終わった頃、昨晩ふらりとどこぞへ姿を消していたジルが戻ってきた。何やらデカい荷物を抱えている。


「おかえり師匠……で、それはなに?」

「そりゃおめぇ、見てのお楽しみってやつだ。つっても、見せるかどうかはこの後のお前次第だけどな」

「なるほど、そういうわけね」


 どうやら彼女に認めてもらえないと見せてもらえないらしい。

 逆に言えば、ジルにはもう俺を認める準備はできているということだ。なおさら、無様な戦いはできなくなった。


 俺達は互いの荷物を片付け準備を整えると、どちらが言うでもなく、ゆっくりと距離をとって向かい合った。


 言葉はない。いつしか森の中もしんと静寂が支配し、始まりを見守っているようだ。


 あの時……五年前、はじめてジルと戦った時の記憶が蘇る。

 今回は以前と違い、互いに剣の柄に手をかけていた。俺も彼女も獲物は直剣。だがどうやらジルは()()()()()ではなく普段使いの剣を使うようだ。


 そして──。


「──フッ!」


 まずは先手必勝とばかりに俺は多重魔法式展開術を使い、『水弾』を三連続で射出する。

 しかしジルは、あの時と同じようにそれらを難なく切り裂いた。だが俺もあの時とは違う。()()()、彼女の間合いの直前まで飛んでいった水弾が『停止』する。そして直後、進行方向に重なり合うように飛んできた()()()の『火矢』が空中に静止する水の塊に直撃する。


 そして瞬間、水塊は蒸気をまといながら空へと溶ける。


「ちっ……」


 開けた空間ながら少しばかり熱を帯びた蒸気は数瞬の間、ジルの視界をふさいだ。その機を逃さず俺は追撃する。


「『風矢・三連』!」


 不可視の矢が、蒸気に包まれた一帯を貫く。しかし──。


「あの時よりはマシになったが、まだまだ児戯だな」


 その声は俺の右後ろから聞こえた。またあの時と同じ、突如現れた強烈な気配。


「……ッ!」


 俺はその気配に反応し、剣を構える。そして瞬間襲う、とてつもない剣戟の音と衝撃。

 しかし、


「ッ──! ふっ!」


 俺はジルの放つ横凪を防ぎ、そのまま打ち払った。あの時とは違い、吹き飛ばされない。それに、


「立ち昇れ、『流葬りゅうそう』!」


 俺はジルの攻撃に合わせて地面に展開した水魔法を展開する。そのまま生み出された水の柱はそのまま、俺に打ち払われて姿勢を崩していた彼女を飲み込みながら天高く伸びていった。


 だが。


「おらぁっ!!」


 ズドン、という轟音と怒号が聞こえたかと思うと、瞬間水柱が真っ二つに両断される。更には柱が伸びていた地面までもに亀裂が入っている。

 上を見れば、天高くつき上げられながらも全く意に介した様子もなく、剣を振るうジルの姿があった。よく見れば口元が少し笑っているように見える。


 生半可な魔法では、やはり彼女に手傷を負わせることはできない。とはいえ、接近戦になれば圧倒的にジルに分があるのはこれまでの旅でみた彼女の強さからも明らかだった。


(まぁ、あの人の場合自爆覚悟で至近距離から四元魔法を打ち込んでも立ち上がってきそうではあるけどな……)


 そんな風に心の中で愚痴りながら、俺は次の一手を考えながら空中から降りてくる彼女を待った。


「おうカイル。これで終わりか?」

「師匠が化け物すぎるんだよ」

「おいおいひでぇな。こんな美人を捕まえてなんて言い草だよ」


 そう言いながらジルは再び剣を構えなおし、俺に向き合う。


(一瞬の差し足で決着をつけるしかない……か)


 おそらくこのまま闇雲に魔法と剣の応酬を繰り返しても、先に力尽きるのは俺だ。ならばここは一気呵成に攻め押し切るしかない。

 俺は覚悟を決め、彼女と同じように剣を構えなおした。


「へへ」

「……」


 永遠にも感じる一瞬の後、ジルは大地を強く蹴り上げた。


「ッ!」


 先ほどとは違い、一直線にこちらへと向かってくる。それゆえ辛うじて目で捉えられているが、それは同時に大地を蹴った時の加速をまるまる乗せた攻撃が打ち込まれることを意味していた。

 俺は魔力を手のひらに集中させ、一瞬先の攻撃に備える。


 そして──


「──シッ!!!」


 ジルは、俺が間合いに入ったその瞬間、加速がのった剣をそのままにひと凪ぎする。


「くっ!!」


 ガキィン、という甲高い響きと共に、先ほどとは違い今度は俺の腕ごと剣がかちあげられる。ジルはその瞬間を逃さず、すかさず突きの構えへと移行する。


「おわりだ!」

「──ッッ!」


 彼女の剣先が俺へと延びるその刹那、俺はかちあげられた腕で魔法を発動する。


「『風爆ふうばく』ッ!」


 そして掌から生み出された風は、その場で大きく弾けるように爆発した。

 轟音と共にその風圧で俺の身体はまるでサイドブースターを使ったかのように横へとスライドする。そして次の瞬間、先ほどまで俺のいた位置にジルの剣先が突き抜けていった。


 しかし、既に剣は魔法の発動により手を離れてしまっている。ジルはすかさずその剣の切っ先を横に構え直し、そのままもういちど横凪ぎに振り払おうとする。


(──ここだ!!!)


 俺は、もう一方の腕で、もう一つの魔法を展開する。瞬間、腕がまるで帯電状態であるかのように発光しはじめた。俺は腕がじりじりと焼かれるような痛みを無視して、続ける。


「ッ!!!!」


 ジルは直感的に危険を感じたのか、すぐさま攻撃をやめて防御態勢へ移行しようとする。だが、遅い。俺は渾身の力を振り絞って魔法を発動した。


「───『雷電槌らいでんつい』!!!!!」


 そう叫んだ瞬間、はじける雷電と共に、雷と化した腕がそのままジルへと向かう。それは超音速の一撃。


「ぐおおおッ!」


 そして。


 ドゴォン! という轟音と共に周囲を光が包んだ。



 ---



「はぁ…はぁ……」


 轟音とともに放たれた必殺の雷電は、ジルを捉えてそのまま数十メートル先まで吹き飛ばしていた。

 その途中の大地は、地面がえぐれ、かすかに焼けこげているような跡が残っていた。


 俺はというと、右腕はジルの一撃で完全にダメになっているし、左腕も不安定な状態から『雷電槌』を発動したせいかその反動で関節が外れ、だらりと垂れ下がってしまっていた。


雷電槌らいでんつい』──。

 ゼレスティア遺跡で与えられた『天雷』の魔紋を用いて作り出した魔法だ。

 これはまず自らの手のひらと甲とに超高出力の雷電を発生させ、手の甲から放った雷電を出力としてまるで射出装置のように掌底を叩き込む。

 そして続けざまに、相手に命中した瞬間再び雷電を爆発させることにより掌底の打撃と雷電による電撃の二重攻撃を叩き込む魔法。

 俺の奥の手であり、ジルにも一度も見せたことがない魔法だった。


「っつー……」


 酷く痛む両腕をだらりとさげながら、俺は彼方へと吹き飛んでいったジルの姿を探す。

 土煙がもくもくと立ち昇るなか、しばらくして彼女は姿を現した。


「いっつつつつ……お前殺す気かよ……」


 現れた彼女は、全身から黒煙を燻ぶらせながらもふらふらとこちらへ歩いてきた。持っている剣は真っ二つに折れている。おそらくかろうじて俺の『雷電槌』の攻撃を防いだが、その威力によって撃ちぬかれたのだろう。


(正直死ぬとは全く思ってなかったけど、まさか立って歩けるなんて……ほんとこの人は本当に人なのか疑わしくなる……)


 俺はそんな感想を抱きながら彼女がこちらへ来るのをじっと待つ。もとより既に両腕は使えない上、今こうして立っているのもやっとの状況。気を抜いたら膝から崩れ落ちそうだった。更には奥の手だった『雷電槌』をも耐えられた以上は、負けを認めざるを得ない──。


 そんな風に考えていると、いつの間にか俺の前までジルが来ていた。

 彼女はそのままじっと俺を見つめ、そして言った。


「正直、ここまでやるとは思ってなかった。やるじゃねぇかカイル」

「でも、俺は見ての通りの状態。対して師匠は元気そうじゃない」

「まぁそりゃあアタシは最強だからな。とはいえアタシだって結構キツイぜ? まさかあんな魔法を隠し持ってるとは思わなかった。あと少し反応が遅れて防御が間に合わなかったら確実にぶっ倒れていただろうな」


(そもそもの話、なんで音速を超える速度で打ち込んだ掌打をあの状態から防げるんだよといいたい件)


 この人は文字通り規格外すぎて、普通が通じないのでもうあきらめた。


「ともかく、お前の実力はよくわかった。まぁアタシに比べりゃまだまだだが、もう一人でもやってけるだろ」

「そっか……」


 さらりと言われたその言葉に、俺は素っ気無く返した。

 すると師匠がむっとした表情で続ける。


「おいおい、このアタシが認めてやるっていったんだからもっと嬉しそうな顔しろよな」

「だって、勝てなかったし……なんか勝ち逃げされた感あるよ」

「んだよったく……師匠が弟子に負けるわけにゃいかねーだろうが。勝ちたいならもっともっと強くなることだな。とはいえその頃にはアタシももっともっともっと強くなってるだろうが」

「はいはい……」


 そもそも、ジルもジルで『とっておき』は使っていなかったわけだし、俺の完全敗北である事実は変わらないだろう。

 とはいえ、超えるべき壁があるということは目標があるということだ。俺は少しばかり気落ちした気分を切り替えるためにそんなことを考えながら、師匠と肩を並べて地面にどかりと横になりながら、暫しの間休息するのだった──。

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