第22話 岐路
「決めた、コイツは私が鍛える。あ、これは絶対だぜ。勝者の特典ってやつだ」
その言葉は誰に投げかけられたものだったのか。それは、先ほどまで二人の戦いを呆然と見守っていたウェストラッド家の皆に対して、あるいはこちらを見てはいないが俺への問いかけだったのか。
ともかく、戦いの後開口一番にそう言ったジルに対して、ハッと正気に戻ったような顔になったジューダスが慌てて口を開いた。
「い、いきなり何を仰っているんですかジルさん! 鍛えるって……どういう……」
「どういうって、そのままの意味だよ。カイルを鍛える。一端に戦えるような男にね」
そんな彼の問いかけにジルはあっけらかんとそう答えたが、流石にあまりの突然の物言いに承服できない……というより理解できないといった様子でジューダスが反論した。
「貴方の突飛さは今に始まったことではありませんが、それにしたって急に……それに鍛えるとは具体的にどういうことをされるつもりなのですか? まさかコスターにしばらく滞在して……?」
「馬鹿言うんじゃないよ。当然アタシの旅は続ける。ソレにカイルを同行させるって意味だ」
「ダメにきまっているでしょう!!!そのような危ない道にカイルを……」
こればかりは容認できないとばかりにそう言ったジューダスの言葉を無視するように、ジルはふとこちらを見て問いかけてきた。
「カイル。お前さんはどうしたい」
「え……?」
(どうしたいかって……)
俺は困惑した。これまでの人生から素直に考えるなら、俺はこの先ジューダスの跡を継いでコスターの領主としてこの地を治めるために勉学に励むことになるだろう。当然その中で魔道具の普及や発展にも努めるつもりだったし、その用意もしてきた。
しかし今こうして、新たな選択肢を提示された。
旅──。
それは俺にとって定められた、既知の未来ではない新たな可能性。そんな選択肢に、俺の心は少なからずかき乱されていた。
(だけど──)
だが、と内心の理性や申し訳なさといった感情がその好奇心を抑えようとした。これまでジューダス達は、俺に期待し、俺が将来自身の跡を継ぐために多くのことを計画してくれていたのだろう。そんな人々の期待を裏切ってまでこの道を選びとって良いのか──。
俺の葛藤は、気づけばジルと、ジューダスやマイナ、ノアやレーナ達にまで見られていたようだ。そんな俺の様子を見ていたジルが、俺に……そしてウェストラッド家の人々を交互に見ながら、これまでとは違う真剣味を帯びた表情で再び問いかけてきた。
「カイル。お前には才能がある。魔法もそうだが、もっと根本的な部分。誰にもできない発想力、機転……そしてこの世界にこれから起こるかもしれない様々な出来事に対峙しても挫けないだけの心が」
そして続けて言う。
「なぁカイル。お前はその魔法……例えば魔道具とやらもそうだが、その才能をこれからも思う存分発揮していきたいとそう思うか?」
「?……それは、そうですね。私の作った魔道具や魔法のおかげでみんなが幸せになるのなら……」
それはこの世界に来て初めて決意したことでもある。当然俺はそう答えた。しかしジルは、そんな俺の答えを聞いたあとでぽつりと言った。
「世界ってやつはよ、才ある人間を放っておかない」
そして彼女は語り始めた。
「賢者、英雄、勇者、魔王……古今東西ありとあらゆる才覚の持ち主は、その才を発揮し続ける限り否応なく、世界の中心になる。いや……世界に巻き込まれる。戦いに勝利すれば次の戦いが。新たな力を生み出せばそれにより混沌と化す場所が。そしてそれを防ぐためにはまた戦いが」
「……」
俺はその言葉を黙って聞いていた。見れば他の人々も黙って聞いている。
「アタシはそんな奴らを何人も見てきた。そしてそうした奴らは大抵の場合二つに分かれる……。『こんな才能なんてなければよかった。もっと普通に生きていたかった』と心折れる者か、その挫折をも乗り越えて、死ぬまで毅然と世界に立ち向かい続ける者かだ」
それは、何故かはわからないが重く実感のある言葉だった。
「なぁカイル。お前はさっき、これからのその才を発揮し続けるって言ったよな。アタシが思うに、お前のソレは確実にさっきアタシが言った……そういう類の才能だよ」
「それは……」
口ごもる俺にジルは、優しく続けた。
「別にお前のそれが悪いってことじゃない。むしろ誰かを幸せにしたいっていう志も、そのために力を使おうという心構えも上等だ。だからこそ、アタシは思う。これから先もその力を使う限り、間違いなくお前さんは世界に巻き込まれる。否応なく。そしてその度に試される。己の力と、挫けない意思ってやつを」
そして、とさらに続ける。
「だからこそ、アタシは旅をすべきだと思っている。未知を、危険を、恐怖を、出会いを。その全てが必ずどこかで自身の力になると信じているからね」
一通り話終えたといった様子で、彼女はそう締めた。ジューダスやマイナ達も、先ほどまでの驚いたような、困惑した様子ではなく何処か考え込むような様子を見せている。
「とはいえ、だ。さっきはノリで絶対なんて言っちまったけど、最終的に決めるのはカイルだ。だってこれはお前さんの道だからな」
そんなことを言ってジルは、ふらりと敷地の外に向けて歩き始めた。
「どこにいかれるんですか?」
ジューダスがそう問いかけると、彼女は手をひらひらと振りながら振り向かずに答えた。
「準備だよ、準備。遺跡に行くんだろ? ……カイル、別に答えは今決めなくていい。だから遺跡から戻った時、改めて返事を聞かせてくれ」
「……わかりました」
俺は、去っていく彼女の飄々とした言葉にかろうじてそう返した。
その後、明朝遺跡に向けて出発する段取りが決まり、各々がその準備へと入った。俺はそんな中で、一人ジルへの答えについて考え続けるのだった──。




