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第19話 路地裏の邂逅

「「は゛あ゛ぁ゛…………」」

「お二人とも、お疲れ様です」


 王城を出て宿屋へと戻った俺達は部屋に戻るなりどっかりと腰を下ろし、親子そろって深々と息をついていた。そんな俺達をレーナは気づかわし気に見つめている。

 特にジューダスは、(主に俺の王城での行動のせいで)普段見せたことのない疲れ切った表情をしていた。


「すまないなカイル。如何せん魔道具についてのやりとりまでは想定していたが、その後のアレは流石に肝が冷えっぱなしだったのだ……」

「いえ……、少しばかり調子に乗りすぎました」

「今回ばかりは否定できんな。本来王族に対してあのような振る舞いをすれば、ひどい国であれば罰も免れないこともある。我が国の王は寛大であったからよかったが……以後気を付けるように」


 注意する力も残っていないのか、その一言で今回の俺の行動への注意を終わらせたジューダスは、しばらく休んだ後そのままレーナを連れて部屋を出ていった。曰く、王都にいる知り合いへの挨拶周りと、マイナ達への土産の調達にいくとのことだ。

 本当は俺も行きたかったが、その精神に反して肉体には歳相応の体力のなさが浮き彫りとなり、とても動けないほどに疲労困憊してしまっていた。そのまま二人を見送った俺は、気づけばその肉体の疲労に引き釣られるように意識も深い闇の底へと落ちて行ってしまったのだった。



 ---



 次に目覚めた時、既に王都を照らす日は地平に沈みかけていた。


「少し寝ちゃったな……まだそんなに時間は立っていないようだけど二人は戻っていないか」


 自分の身動きで軋むベッドの音以外何もしない部屋からは、人の気配は感じない。


「二人が戻るまでもう一度横になるか……」


 入れ違いになっても困るので、俺はそのまま再びベッドに横になり、瞳を閉じようとしたその時──。


(──ル。カ……ル──)


「んぅ……」


 ふと、何処からか何故か懐かしい雰囲気を感じる声が響いてきた。


「なんだ……これは………」


(ル………カイル─…)


 その声はだんだんと鮮明になり、自分の名前を呼んでいることをかろうじて聞き取ることができた。そして気づけば俺は、何かにとりつかれるように軽く支度を整え宿屋を飛び出し、その声がする方へ(というより、気配が強まる方へ向けて)走り出していた。


 何故だか分からないが、どうしてもこの声の主には会っておかなければいけない──。そんな例えようのない確信を寄る辺に、俺はとうとうその場所へとやってきた。


 ……よく知らない王都の路地を通り抜けようやくたどり着いた、人の気配の感じない小さな広場のような場所にその人物はいた。


「カイル」


 そう優しさと悲しさが入り混じったような声色で名前を呼んできたのは、白いローブを羽織った女性だった。顔は見えないが、その声色やローブごしに微かに見える体付きからそう察する。

 建物に囲まれた路地裏の広場には不釣り合いな静謐さと、隙間から微かに差し込む夕暮れの陽の光に照らされる彼女の姿は、何処か神々しささえ感じる雰囲気を纏っていた。

 そんな雰囲気のせいか、あるいは別の理由かはわからないが、不思議と俺は彼女を警戒する気が起きなかった。


「貴方は誰ですか?どうして私の名前を……?」

「ふふっ……」


 俺の問いかけに微かに笑う女性は、ごめんなさい、と言いながら続けた。


「私が貴方を知っている理由を答えるのは、難しいわ。それに、私が今こうしてここにいる理由は、あるいは貴方にとって全く関係のないものになるかもしれないから」

「どういうことですか……?」


 そんな俺の疑問に彼女は答えることなく、続ける。


「もし貴方がこの先歩む道の先で運命の楔から解き放たれ、この世界へと来た本当の意味を見つけられたのなら……」


 そしてゆっくりと息を吸い、彼女は更に続ける。


「その時こそ、私の……私達の長い旅の終わりを。神が手繰り観劇する、運命という名の舞台に幕を下ろす戦いを始めましょう。だから今は、ただ精一杯生きなさい、カイル。貴方が貴方を見つけるその日まで」

「それは……」


 どういう意味だ、という言葉を投げかける前に。一瞬の瞬きの間に、白いローブの女性の姿は消え去っていた。

 跡には、彼女がいた場所を照らす陽の光だけが残っていた。


 まるで夢を見ていたかのような気分だったが、頬をつねれば痛みがある。それに、正に夢でも見ているかのような不思議な邂逅にも関らず、俺の心には妙にしっくりとくるような感覚があった。この出会いが必然であったかのように。


「ともあれ、だ」


 この出会いがどんな意味を持つにしろ、今の俺がやるべきことは変わらない。


「それにしても、精一杯生きなさい、ね……」


 今はもう記憶も薄れかけているが、あの日。俺がこの世界に生れ落ちるきっかけとなった自称カミサマとやらの言葉とそっくり同じことを言われるとは何とも妙な縁を感じると、そう思ったのだった。


 ──それから宿屋へと戻った俺は、どうやら先に帰っていたらしいジューダスとレーナに叱られてしまうのだった。



 ---



 翌日。コスターへと帰る日。

 様々な出来事があったせいか、またしても倒れ込むように寝てしまった俺は窓から差し込む光と共に目を覚ました。


「おはようございます、坊ちゃま」

「ぉはよう……レーナ……」


 身体をゆっくりとおこし周囲を見れば、レーナは既に出立の支度をはじめ、ジューダスも既に自らの用意は済んだとばかりにゆっくりと紅茶を飲んでいた。

 普段ならこんなにぐうたらと寝ていたら怒られていたものだが、今回ばかりは色々な事があったせいか疲れがたまっていた俺を案じて何も言わないでくれたらしい。


 俺はそんな二人の優しさに心の中で感謝しつつ、外の水汲み場で顔を洗って眠気を覚ました。


「よし!」


 俺は掛け声とともに気合を入れると、これからやるべきこと・やりたいことを胸に宿へと戻っていくのだった。


 そして諸々の支度を整え、ちょうど太陽がてっぺんを上った頃、俺達は王都を後にするのだった。

 王族の方々との約束や、謎の女性との邂逅。また再びこの地に来訪する予感を微かに感じながら。



 そして。

 ここから、俺の本当の旅がはじまることになる。

 この世界に生れ落ちた意味を知る旅が。

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