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第17話 ランドルフの問いと対価

「では、始めさせていただきます」


 そう言った俺はさっそく、魔道給水機の実演を始めた。要領は初めて家族に対して説明を行った時と同じだ。魔力を通し、水生成の魔法式を起動。水を生成する。

 そうして、生成された水は溢れるように流れ出し、大桶をなみなみと満たしていった。


「なんと……」

「どういうことだ? どうやっている?」

「魔法か……? いやしかしあんな魔法は……」


 そこかしこで聞こえる小さな囁きを無視して、俺は実演に合わせて原理の説明を行う。説明が終わるころには、周囲はシンと静まり返ってきた。


 少しして、ランドルフが口を開いた。


「いやはや……正直想像以上だ。これがあればどれだけ渇いた土地であっても安定して水を供給できるではないか。そして何より……」


 そして彼はスッと眼を細めて続けた。


「カイル、お前はこの魔道具に()()()()()()()()()のだな?」

「はい、その通りでございます。陛下」

「テオドール、魔法に見識のあるお前に聞きたい。お前は今見たような、ただ水を生み出すだけの魔法を見たことがあるか?」


 そう言ってランドルフが問いかけたのは、横に座っていたテオドール王太子だった。しかし、テオドール王太子は首を横に振りながら答えた。


「いえ……父上、少なくとも私の知る範囲で、あのような魔法は見たことがありません。父上もご存じの通り、我々にとって魔法とは兵器です。あのような使い方をするところなど見たことがありません」

「で、あるか」


 ふむ……と顎鬚を撫でて押し黙るランドルフ。少しして、口を開いた。


「カイルよ。お前は魔道具を作ったといい、その実物も今こうして見ることが出来た。これは間違いなくこの王国に資するものとなるであろう。このような道具を生み出したこと、まこと大儀である」

「は! 有難うございます」


 俺は恭しく頭を下げる。そんな様子を見ながら、ランドルフは続けた。


「此度の献上品について、後ほど褒美をとらす。ただその前にもう一つ、お前に問いたい」

「はい、何でございましょうか」

「あの魔道具に使ったであろう『魔法式』。それもお前が作ったということで、間違いないか」

「はい。おっしゃる通りでございます」

「そうか……」


 ここで嘘をついても仕方がない。俺は正直にそう答えた。


「では、お前の作った魔法を何か一つ、今見せてほしいと言ったら、どうする」

「……」


(やっぱりそうなるよな……)


 順当に想定していた質問が来た。とはいえここからはタダで見せるわけにはいかない。


「無理か?」


 そう続ける国王に向けて、俺は息を少し吸い込み、ひとしきりためた後で言った。


「陛下が望むのであれば、ご覧にいれましょう。ただし、その前にお願いしたいことがございます」

「ふむ、述べよ」

「魔法式というものが魔術師にとって命も同然であることは国王陛下もご存じかと思います。ですので今ここにいる大勢の前で披露する、というのは些か憚られます。つきましては、人払いをお願いしたく」

「なんだと! 貴様何様のつもりだ!!」

「そうだ! 地方領主の息子風情が!」


 俺がそう言った途端、横から罵声が飛んでくる。まぁ田舎の男爵の、しかもその息子が生意気にも「お前たちには見せられないからどっか行け」などとのたまっていれば怒るのもごもっともだろう。まぁだからといって見せてやるつもりはないが。


「私がお聞きしたのは、陛下に対してです。陛下もそのようにお考えでしょうか」

「ほう……」


 そういったランドルフの口元は僅かににやりと笑ったような気がした。横目に見えたテオドールも同じような表情、シンシアは少し驚いたような表情をしている。


「いいや、お前の言う通りであろうな。魔法式とは魔術師にとっては命も同然。悪戯に見せられぬというお前の意見は最もである。聞け!!」


 国王は広間に響き渡るような声で告げた。


「これにて謁見式を終了とする! もし先ほどのカイルの発言に意があるものは今この場で言うがよい! 発言を許可する!」


 そう言って国王は周りを見回すが、先ほど罵声を飛ばした貴族らしき男達も黙りこくっている。さすがにここで自分の感情を押し通そうとするほどの愚かなやつはいないようだ。

 その様子を横で確認していた執政官が口を開いた。


「これにて謁見式を終わります。皆さま、ご退室をお願いいたします。なお、ジューダス=ウェストラッド並びにカイル=ウェストラッドの両名はこの場にお残り戴きますよう」


(普通は王族が退室して、その後俺達ってのが流れだろうから若干違和感があるな……)


 まぁそんな形式なんて無駄なことは俺にとってはどうでもいいことだが。


 そうして。

 この場には、王族の四人、近衛騎士らしき人物が数人と執政官。そしてジューダスと俺だけが残った。


「すまんな、面倒をかけた」


 そう言って先ほどより若干柔らかな表情で語りかけて来たのは、ランドルフだった。


「いえ、あの手の手合いはどこにでもいるものですから」

「お、おいカイル! やめないか!」


 そんな表情につられて俺が思わず軽くそう返すと、ジューダスが慌てて制止してきた。そんな俺達の様子を見て、ランドルフは高らかに笑った。


「わはは! よい、ジューダス男爵。息子の好きにさせてやれ。それにしても頭が回るだけでなく、どうやら肝も太いらしいな」

「そんなことはありませんよ。ただの子供です」

「ただの子供は、自分のことをただの子供などとは決して言わんと思うがな」


 ランドルフがそう言うと、テオドールとシンシアがぷっと噴き出していた。それをクリストリアに窘められている。ジューダスはというと最早心ここにあらずといった様子だった。これは後でお説教確定だな……。


「ともかく、これでお前の言う条件はそろえた。そろそろよいか?」

「はい、と言いたいのですが、実はもう一つだけ、お願いしたいことがあります」

「む?」

「か、カイル……」


 ジューダスが涙目になっている。だが俺はこの場でどうしても聞きたかったことが出来てしまったため、無礼を承知で敢えてそう口にしたのだった。


「ふむ……その目を見るに冗談ではないようだな。言ってみよ」

「はい。先ほど陛下は、テオドール王太子が魔法に詳しいと仰っておりました。私はこれまで独学で魔法について学んできたため、見識あるテオドール王太子に一つだけ、魔法についてご教授頂きたいことがあるのです」

「ふむ……どうだテオドールよ」

「そうですね……どのような質問か、にもよりますね。出来れば先に質問を教えてもらえると助かります」

「だ、そうだ。カイルよ、お前の知りたいこととは何だ?」


 テオドールの言葉を聞いたランドルフは、そう俺に問い返してくる。俺はゆっくりと答えた。


「魔法式に刻まれる文字……いわゆる魔紋と呼ばれるものについて。私が現状知り得ているのは四元魔法式に刻まれた魔紋だけですが、世界にはこれ以外の魔紋があるのか。あるとしたら魔術師たちはどのようにしてそれらを発見しているのか」


 それを知りたいのです、と俺はテオドールに問いかけた。テオドールは、少しばかり考え込んだ後に答えた。


「わかりました、もし君の魔法式を見せて頂けたらば、その質問にお答えしましょう」


 この件に関しては、魔法に絡む話題のためか特にランドルフから口を出すことはなかった。ともあれ、結論は出た。


「それではさっそくご覧にいれます。すみませんが騎士のどなたか、私の前に立って盾を構えてはいただけないでしょうか」


 俺がそう言うと、騎士たちの中でもっともランドルフに近い位置に立っていた人物がゆっくりと俺の前に歩いてきた。


「ダリア王国近衛騎士団、団長のオレグ=フェルダンだ。俺がお相手しよう」


 ……まさかの大物が出てきてしまった。

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