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第16話 謁見式

 いよいよ、当日がやってきた。

 今俺はレーナに服の着付けを手伝ってもらっている。正直このような装飾だらけで動きづらい服など着たくはないのだが、そうも言っていられない。

 慣れない服に四苦八苦している俺の横で、ジューダスは既に準備万端と言った様子で静かに紅茶を飲んでいた。


「坊ちゃん、よくお似合いですよ」

「お世辞でも嬉しいよ、ありがとうレーナ」

「ははは。そうだな、まだまだ服に着られているといった感じだ。まぁこういう場を経験していく中で徐々に纏うべき雰囲気というものが分かってくるはずだよ、カイル」

「そうだといいんですが……」


 やはりこういった堅苦しい格式や立場は性に合わない俺だった。


(俺が領主になったなら、パルマ領は緩すぎず硬すぎず、そんな場所を目指したい)


 俺の姿を見て微笑む二人を後目に、俺は密かに酷く安直な将来の領地運営を妄想するのだった。

 それから少しして、いよいよ出発の時間。


「さて、それでは行くとするか。準備はいいな、カイル」

「はい!」


 もうここまで来たら後戻りはできない。俺は覚悟を声に変え、ジューダスに答えた。

 彼もそんな俺の様子に深く頷き、そのまま王城へと向かうのだった。



 ---



「ランドルフ=リクシム=ダリア国王陛下の御成りです」


 国中の諸侯が集まるここは、王城の中心、玉座の間。今俺たちは、玉座への道に控えるように頭を垂れ、近衛騎士たちに付き添われながら玉座へと向かう国王陛下を迎えているところだった。


「皆、大儀である。面をあげることを許す」

「「「は!!!」」」


 国王陛下は座するなり、そう言葉を発した。俺もそれに従って顔を上げる。すると、目の前には四人の人間が座っていた。


 国王、ランドルフ=フォン=ダリア

 王妃、クリストリア=フォン=ダリア

 王太子、テオドール=フォン=ダリア

 王女、シンシア=フォン=ダリア


 今まさにこの場に、このダリア王国の要人たる人間が勢ぞろいしていた。横目にジューダスを見ると、流石にやや緊張した面持ちで国王の方を見据えている。ちなみにレーナは付き人専用の控室で待機している。


「今年もこの日を迎えられたことを心より嬉しく思う。昨今の世界の趨勢は決して楽観しできる状況とは言い難い。しかしながら我がダリア王国は、余と余の忠臣たる諸君らがいる限り決して揺らぐことはない。これからもよろしく頼むぞ」

「「「ダリア万歳!!!国王陛下万歳!!!」」」


(わぁ……まさかリアル国王陛下万歳を聞くことになるとは……)


 俺は周囲にいる諸侯らの熱気に若干押され気味になりながら、とりあえず形だけ合わせておいた。


 その後、王妃、王太子とあいさつが続き、最後にシンシア王女の言葉となった。

 シンシア=フォン=ダリア。王家の血筋の証たる紅い瞳と、肩まで伸びた艶やかな純白の髪が目を惹く少女。年齢で言えば俺の一個上だったか。

 テオドール王太子が父ランドルフの知性を受け継ぎ、シンシア王女は母クリストリアの慈しみを受け継いだと言われるように、その雰囲気や言葉からも優しさがあふれ出していた。とても十歳が出せる雰囲気とは思えない。


(これが王族の人間か……)


 俺は改めてこの世界がファンタジーの世界なんだなぁと、その光景を見ながら思い返してしまったのだった。


「忠義厚き皆さま、日々我がダリア王国のために尽力いただいておりますこと、感謝致します。これからもダリアとダリアの国民に、輝かしい栄光の未来があらんことを心より祈っております」

「「「ダリア万歳!!!王女殿下万歳!!!」」」


 そんな王族のスピーチが終わり、続いて諸侯からの奏上が始まった。

 俺達がこの枠でやることは特にない。俺は黙々と、問題の時間が訪れる事を待ち続けるのだった。



 ---



「臣下一同からは以上となります」


 宰相らしき人物がそう告げ、国王がそれに頷いたのを確認する。そしていよいよ、謁見式が始まることとなった。


「ではこれより、謁見式を始める。なお今回拝謁の栄に浴したのは二人である。名を呼ばれた者は前に出るように」


 国王への謁見という行為自体は普段から行われているが、迎年祭に合わせて行われる謁見式は何やら特別らしく、その年に特別な何かを為した者だけが受けることができるということは事前にジューダスから聞いていた。だが……。


(まさか俺らだけだなんて思わないよなぁ……)


 予想外である。何人もいるならまだしも、ここで言う二人とはおそらく俺とジューダスのことだろう。否が応にも注目を浴びる。つらい。


「パルマ領領主、ジューダス=ウェストラッド男爵! そしてその息子カイル=ウェストラッド! 前へ」

「「は!!!」」


(とうとう来てしまった……)


 俺はジューダスについて国王陛下の前に出ると、膝を付き頭を下げた。


「パルマ領領主、ジューダス=ウェストラッド並びに息子のカイル=ウェストラッド、ここに」


 ジューダスがそう言うと、ランドルフ国王は「うむ」と鷹揚に頷き、口を開いた。


「ジューダス=ウェストラッド、そしてカイル=ウェストラッド。よくぞ参った。さて、余が今回お前たちを呼んだのは他でもない。近年パルマ領が、そこのカイルの才覚により類稀なる発展を遂げているという話を伝え聞いたからに外ならぬ。余の言葉に間違いはないか?」

「はい! 我がパルマ領は、息子の発明した魔道具と呼ばれる道具によって生活・農業の面で徐々にではありますが発展を遂げていると自負しております。息子は私の誇りです」

「うむ。確かカイルは九歳……であったな。その歳で才覚に溢れ、我がダリアの発展に資する逸材。大切にするのだぞ」

「は!!」


 九歳? 本当に子供じゃないか……

 そんな声が小さく聞こえてきたが、ランドルフ国王が「静まれ」と言うとシン──と辺りが静まり返った。


 ジューダスとランドルフ国王の事実確認のようなやりとりが終わり、いよいよ国王は俺に顔を向け、質問してきた。その横には、こちらをじっと見つめるシンシア王女の姿があった。


「さてカイルよ、お前の父にも聞いたが、改めてお前からも聞かせてほしい。近頃パルマ領で普及しはじめた魔道具というもの。ソレはお前の発明したもので相違ないな?」

「はい国王陛下」

「なるほど、実に素晴らしい。事実、今年だけで見てもパルマ領の治安・生活レベルはこれまでになく向上しているという士官からの報告を受けている。だからこそ、余はその魔道具とやらに興味がある」


(来たか……)


 ランドルフ国王は一呼吸置き、話を続ける。


「ここからは余の興味本位で聞くことである、もし答えたくなくば答えなくてもよい。道具の製法は一つの財産であるからな。無理強いはせぬ」


 そう前置きし、ランドルフ国王は質問した。


「その魔道具とやらは、一体どのようなものなのだ? 聞けばこれらはパルマ領……コスターの町からは一つも出荷されていないと聞く。それほど貴重なものなのか?」


(ここからの受け答えは今後に大きな影響を与えることは間違いない。答えないのは悪手、素直に答えるだけでも悪手、か──)


 俺はしばらく考える素振りを見せながら、予め考えて来た言葉を伝えた。


「国王陛下、お答え致します。まず一つ目、魔道具とは何かについてです。これは、皆さまのご存じの魔兵器……それを生活用に改造したものと思っていただければ想像しやすいかと思われます」

「……ほぅ?」


 魔兵器、という言葉にややピクリとしたランドルフ国王だったが、その後の『生活用』という言葉で少しばかり吊り上がった目じりを下げた。


「実物を見て頂いた方が早いかと思い、今回私が製作したもののうちの一つを国王陛下に献上したく、お持ち致しました」

「うむ、その報告は聞いておる。おい」


 そう言って国王は兵士達に声をかける。すると、俺たちが入ってきた扉から台車に載せられた魔道給水機と、大きめの桶が運ばれてきた。これは俺達がこの旅にあわせて積み込んでいたもので、事前に執政官に報告・提出していたものだ。


「陛下、ウェストラッド家より献上された品をお持ちしました」


 そう執政官が答える。

 周りでは、魔道具とは一体どのようなものだ? という疑問と興味の声がちらほらと聞こえてくる。


「ふむ……見たところ街中にある水汲みの装置と同じようにも見えるが、それとはどのように違うのか説明をしてくれるか、カイルよ」

「はい、今から実演を交えてご説明させていただきます」


 俺が宿屋での空き時間を使って軽く調べた限り、実はこの元の世界でいうところの(名前自体は違うようだが)ポンプという装置自体は王都においては一般的に見受けられるものであった。

 やはり大国の首都というだけありそうした設備周りはコスターや他領の町とは比べ物にならないほど充実していたのだ。

 とはいえ、それはあくまで王都という、人的・物的資源の充実した場所だからこそ維持管理が可能なのであり、今もまだ大陸の大部分の町々はコスターと同程度かちょっと上くらいの生活レベルであることもまた事実らしかった。


 だからこそ、この魔道具に価値があると俺は考えていた。


「では、始めさせていただきます」


 俺は魔道具の横に立ち、王族の四人に一礼してさっそく説明を始めたのだった──。

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