第15話 王都への旅立ち その2
「ここが王都ですか……!」
王都に到着した人々が最初に訪れる大通りへと出た俺は、その光景に圧巻されていた。
まず目に入るのは、人、人、人の波。コスターとは違う、正に『都』であった。大通りの両側面は大小様々な店が軒を連ね、その隙間では露天商が商いをしている。そして、それら店に入る人々の種類も実に多様だった。
剣を携え、旅の役に立ちそうな道具を物色する冒険者らしき人々や、行列を成す料理屋の店先のテーブルで、遠目にも美味しそうな料理に舌鼓を打つ王都の民らしき私服の人々。民、商人、冒険者……立場も生活も異なる人々がこの大通りに交わりあっている光景は、正に『自由の国』と呼ばれるに相応しい光景と言えた。中には貴族のような人までもいる。
「僕のイメージだと、貴族は貴族。冒険者は冒険者と言った形で過ごす場所が違うイメージでしたが、この光景を見ると違うようですね」
俺がこの光景にそんな感想を言うと、彼は少しばかり誇らしげに答えた。
「ダリア王国の、特にこのローゼンは賢王様の治世のおかげで他国に比べて地位による差別やわだかまりが非常に少なくてな。そうした各層の心理的な距離の近さと、王国の騎士団による警備のおかげでこうした光景が実現してるといえるかもしれないな」
「王国騎士……」
それはおそらく先ほどから見かける重厚な鎧に身を包んだ者達のことだろう。過度な威圧感を出すこともなく、時にはお年寄りの道案内をしている者すらいた。
「私が自慢することではないが、このダリアという国は間違いなく大陸……いや世界全土を見渡しても屈指の素晴らしい国であると思っている」
「確かに、この光景を見ると素直にそう思えますね」
少なくともこの光景を生み出せるような知性と良識を兼ね備えた人間が王であれば、ジューダスがそう言うのも無理からぬことではあるな、と素直にそう思う俺であった。
王都ローゼンは大きく三つのエリアに分かれており、一つが先ほどの中央通りなどがある市民街。その先が貴族の住宅や諸侯の別荘などが立ち並ぶ貴族街。最後に王城や王族の住まいがあるエリアの三つがある。
市民街でいうと、この中央大通りの他にも、冒険者ギルドという冒険者と依頼人とを仲介する施設や旅人向けの安宿などを中心とする東大通りが。西には平民層向けの住宅街があるとのことだった。
そして、そんな説明を受けながら大通りを抜けて目的の貴族街についた俺たちは、さっそく予約していた宿へと赴くのだった。
有力な諸侯ならばこの辺りに自身の別荘を持っているのだが、普段王都に訪れる機会の少ない辺境の領主などはさすがにそういったものを持たない。そのため、そういった諸侯ら向けに設置された宿にて、行事期間中の日程を過ごすのが通例とのことだった。
「こちら、パルマ領領主、ジューダス=ウェストラッド男爵様になります。予約のご確認をお願いいたします」
宿屋に着き、レーナが受付に予約の確認を行う。
「お待ちしておりました、ウェストラッド男爵家御一行様。お部屋は二部屋でございますね。どうぞこちらになります」
そう言って係の人間に案内された部屋は、とても広々とした正に高級ホテルの一室といった様相だった。
(うぉぉ……こんなベッドうちにもないぞ……)
俺は長旅で痛めた身体を休めるためにベッドにもたれかかる。純白のシーツと沈み込む羽毛の柔らかさが心地良い。
「あ゛ぁ……」
「こら、カイル。例え我らしかいないとしても、あまり気を抜かぬようにな」
「はい父上……すみません」
そう言いながらしかし身体は言うことを聞かず、なかなかベッドから抜け出すことが出来ない俺だった。
そんな俺をジューダスも何だかんだ苦笑しながら見ている。
「それでは旦那様、坊ちゃん。私も部屋の確認をしてまいります。また夕食のお時間になりましたらお伺いいたします」
「うむ、ご苦労レーナ。暫し身を休めたまえ」
「はい。失礼いたします」
そう言ってレーナは部屋を後にした。
「さて、カイル。お前ともさっとこの後の日程について確認をしておくとするか」
「承知しました!」
ベッドのおかげですっかり元気になった俺は、ジューダスに元気よく答える。
「よし、きなさい」
そうして俺たちはこれからの予定について話し合った。
……実は今回の旅では王都にいる時間はそれほど多くない。実際、明日式典や国王陛下への拝謁が終わったらばそのままコスターへとトンボがえりすることとなるからだ。理由としては、マイナの出産が近いことや、以前に述べたように地方領主があまりその地を離れられないという事情がある。
俺達は明日の朝王城へと向かい、各地の諸侯が国王陛下への奏上を行う式典に参加する。その後別の枠で、本題だった国王陛下への謁見式が予定されているとのことだ。それらが済むのが大体夕方頃。その後は王家主催の晩餐会へと参加し、国王陛下からの来年に向けてのお言葉を頂戴して無事終了となる。
……気が抜けない一日になりそうだ。
その後三人で夕食をとった俺たちは、明日の式典に向けて早々に就寝するのだった。