第14話 王都への旅立ち その1
「国王陛下の命である。私と共に、王都へと向かうのだ」
「……え?」
その言葉に、俺は思わず変な声が出てしまった。
「私が、ですか……?」
「はぁ……そうだ。国王陛下は、最近コスターに普及しはじめた魔道具に興味を……そして何よりその考案者であるお前に会いたいといっているそうだ」
そのまま魂が抜けてしまうのではないかと思えるほど深いため息を吐きながら、ジューダスは答えた。
それはそうだ。辺境領地の男爵などには到底会うことが叶わぬはずの国王陛下に、自身の息子を名指しで呼び出されたのだ。俺が逆の立場だったらその心中は察するにあまりある。
「なるほど……やはり、国の方々には魔道具製作の大元が僕であることが伝わってしまっていましたか」
「そういうことになるな……まぁこちらも徹底して秘密にしてきたわけではない。その気になればいくらでも調べられたのであろうが、想定外だったのは国王陛下直々に呼び出しがかかったことだ。最悪でも私が呼び出され、説明を求められるくらいかと考えていたが甘かったな」
そう。
俺はこの魔道具の普及を、カイル=ウェストラッドという個人ではなくウェストラッド家として行ってきた。
理由は、この魔道具が世間に伝わった時に多かれ少なかれ注目が集まってしまう可能性があること。そして、その注目がまだ若干九歳の子供に向けられるのはあまり良いことではないという判断からだった。
政治、軍事、権力、エトセトラ……これらの謀略の対象に年齢など関係がない。注目が集まるほどに、否が応にもこうした事柄に巻き込まれるリスクは上がる。だからといって偽名や別人として世に出した場合、国への背信行為とみなされる可能性もないとは限らない。
そのギリギリの折衷案として仕方なく家名で出すことにしたわけだが、魔道具は予想以上に王都のお偉方の興味を誘ったようだ。
「まぁ、僕も聞かれない限り答えないくらいで殊更秘密主義的に行動してきたわけではなかったですから仕方ないです。コスターの町の皆さんももうほとんど暗黙の了解みたいな感じでしたから」
「はぁ……そうだな。仕方がない。とはいってもまだお前は子供だ。いくら頭が回るとは言っても、政の場に出すにまだ幼いし経験が足りない。だからなるべく不用意な行動はしないよう気をつけなさい」
「わかりました、父上」
そう言うとジューダスも少しばかり安心した様子で、実際の王都への旅程について伝え始めた。俺は話を聞きながら、その裏で考え事をしていた。
(王……か。領主の息子として政に関する座学は学んできたが、正直王政なんて規模がデカすぎてどんな深謀遠慮が渦巻いてるか想像もできない)
そもそも俺は元々の性格的に誰かの上に立つ、というのが……というより立場という枷のせいで思う様に身動きが取れなくなることが苦手だった。まぁそれは今はいい。
油断せず行こう、と俺は改めて心に決めたのだった。
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ダリア王国。
大都市ローゼンを王都とし、世界最大の規模を誇る中央大陸の西部に位置する王政国家である。肥沃な大地と高い国力、そして賢王と称される現国王の手腕によって、数多の国が存在するここ中央大陸においても強い影響力を持っている。
また、別大陸ではあるが世界最大宗派であるカーナ教の総本山からも離れた場所に位置しているため宗教色は薄く、自由信仰が認められている国でもある
総じて『自由の国』である印象が強く、才覚ある王のもとで安定した治世が行われているという。
(だからこそ、あまり無茶な要求はしてこないと信じたいな……)
俺は今、王都に向けて走る馬車の中にいる。
同乗者はジューダスとレーナだ。今俺は、(御者を除けば)父と、護衛兼世話係のレーナと三人で王都へと向かっているのだった。
ちなみにレーナは普段は家の使用人として家事を行ってくれてはいるが、弓術においては秀でた才覚を持っているらしく、また短剣の心得もありウェストラッド家の用心棒としての一面も持ち合わせている。そんなレーナは今俺の横でジューダスと王都での日程の確認を行っていた。
俺はというと……
(尻が痛い……)
慣れない馬車に尻を痛めながら、外の牧歌的な景色をぼーっと眺めていたのだった。
ここでは魔道具作りも魔法の練習もできず、完全に手持無沙汰なのだった。
レーナからは、「普段の坊ちゃんは暇さえあれば色々なことをやっていますから、たまには外の景色でも眺めながらのんびりされるのも良いかと思いますよ」と言われてしまった。
(それにしても、まだあと数日はかかるのか……)
王都までの道のりは長い。早馬を飛ばしても二日はかかるというのだから、今の馬の速度では五日程度はかかるのだろう。俺は王都にもついていないのに既にお疲れモードであった。
そうして。
幾つかの小さな町々を経て、俺たちはとうとう王都に到着したのであった