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第13話 魔道具の町と呼ばれた地

 それから早一年と数か月。今の季節は冬、日々の寒さが身に応える時期を迎えていた。


(この世界に来てから、これで九度目の冬か……)


 カイル=ウェストラッド、九歳の冬。

 俺は、自宅の風呂に浸かりながら、これまでのことを回想していた。



 ---



 初めての魔道具が完成し自宅に戻った俺は、翌日さっそく家のみんなを集めてこの魔道具のお披露目をすることにした。


 俺が魔力を流して(正式名称とすることにした)魔道給水機を使った光景を見せると、ノアやレーナが「私もやってみたい」と言い出し、次々に試し始めた。


 二人が魔道給水機を触っているのを横目に、俺はこの魔道具がおそらく緑等級でも扱えるはずだという説明をすると、家の人間で緑等級の者……母のマイナが双子と交代するように魔道具の前に立ち、恐る恐る取っ手に手を伸ばす。

 すると、(魔力を流す、という感覚に多少苦戦しながらも)無事使用することができたのだった。

 魔道具を介してではあるが初めて魔法を使ったマイナは、水が出る光景に驚くのもそこそこに、


「あなた……わ、私が……私が魔法を使っちゃったわ!!!」


 と、ジューダスに抱き着いておおはしゃぎしていた。そして、くるりと俺の方へと身体を向けて近づいてくると、同じようにぎゅうと抱きしめて来た。


「カイル! もうこの子ったら本当に良い子なんだから!」

「え? え?」


 困惑する俺を見ながら苦笑していたジューダスが、かつてマイナがまだ幼かったころ、魔術師になる夢があったこと。そして魔力等級によってその夢が絶たれてしまったことを話してくれた。


「貴方は私の小さな頃の小さな夢をかなえてくれたのよカイル。ほんとうに有難う」


 マイナは少し涙目になりながら俺にそう告げ、もう一度強く抱き締めてくれた。奥では何故かノアとジューダスも貰い泣きしていた。レーナはほっこりしていた。

 とまぁ想定とは違う喜びもあったが、無事お披露目会は終わることとなったのである。


 その後ジューダスと話をした俺は、徐々にではあるがこの町に魔道具を普及させていきたいこと。それによって領民の生活を楽に、豊かにしていきたいことを改めて説明した。ジューダスも実際の成果としてこうして魔道具を完成させた以上、父としてではなく領主としてその提案を支援することを表明してくれた。


 こうして、俺の作った魔道具がコスターに徐々に普及していくこととなり。


 これまで町民にとってのただ一つ(俺の家……領主の家の裏庭にもあったが、基本的には緊急時以外の開放はされていなかった)の給水場所であった中央の井戸の他に、数か所に魔道給水機を設置されることとなった。

 その結果として、朝の水汲みの行列や供給が追い付かなくなるといった事態が解消されたり、徐々にではあるが水回りで余裕のある生活が実現し始めていた。


 それからも、風生成の魔法と水生成の魔法を組み合わせる事により、スプリンクラーの要領で畑の広範囲に水を撒く道具だったり、水生成の魔法と火生成の魔法を組み合わせて薪要らずで湧かせる風呂であったり。


 俺は過去の世界で仕組みを知らずに使用していた色々な道具や装置を、この世界の魔法を使って実現していった。

 そうして様々な魔道具という名の未知の道具を使い、急速に領地改革を進めるコスターの町は、いつしか〝魔道具の町〟と呼ばれるようになっていった──。


 そんなある日。


「カイル、お前に話がある。あとで私の書斎に来なさい」

「わかりました?」


 いつものように裏庭で日課の魔道具作りに精を出していた俺は、神妙な面持ちのジューダスに呼び出された。


(何の話だ……? 座学の途中で新しい魔道具のアイデアをメモッてたのがばれた時のことか? それとも就寝時間を過ぎてこっそり魔道具のアイデア出しをしていたことか?)


 ……ダメだ、心当たりが多すぎて検討がつかない。


(お叱りを受けるとして、魔道具製作に割ける時間が減るのは避けたいな……)


 魔道具……というよりその中に刻まれた魔法式は、現状俺にしか作れない。何故なら俺の《《四元魔法式そのものを書き換えた魔法式》》を行使する際、あるいは魔道具に刻む際はそこに刻まれた魔紋の一つ一つの意味を理解していなければならず、未理解の者が見よう見まねで同じ魔法式を刻んでも発動しないことがこれまでの実験で分かったからだ。

 ただ、それは同時に俺の魔法式が安易に広がらないことも意味していたため、俺としてはある種の安心材料ともなっていた。


「ともかく、行くか」


 俺は一人そう呟くと、散乱した魔道具の部品や図面を片付け書斎へと足を運んだ。



 ---



「失礼します」

「入りなさい」


 俺はその言葉を聞いてゆっくりとジューダスの待つ執務室に入った。


「それで、どのようなご用件でしょうか」

「うむ……」


 何やら歯切れの悪い様子のジューダス。これは何か面倒事の予感がする……。


「カイルよ、我がパルマ領が属するこのダリア王国では、毎年冬の終わりにある行事が執り行われている。それは知っているか?」

「えっと……『迎年祭』ですよね?」


 要は新しい年を迎えるためのお祭りだ。これはダリア王国全土で催されるもののため勿論俺も経験している。


「そう、新しい年を迎えるためのこの行事だが、私達地方を治める諸侯にとってはもう一つの意味がある」


 そう言ってジューダスは俺に、この迎年祭に合わせて行われるもう一つのイベントについて教えてくれた。


 曰く、毎年この行事に合わせてダリア王国の諸侯達は一年の成果(年貢や土地の開拓等)や近隣の情勢について国王陛下に奏上するために王都へと出向くことが定められているそうだ。とはいっても本当に全土の全諸侯が一同に会するというわけではなく、実際に王都へと出向くのは王国でも有力な者たちに限られるらしい。

 というのも、まずこのパルマ領などの辺境領地の領主らは基本的にその他の有力諸侯と比べて余裕があるわけではなく、自身がいないと領地経営に支障をきたす可能性が大きいという問題がある。そのため国王陛下はそのあたり事情を踏まえて、例年そうした事情のある諸侯へは書簡と年貢を納めるのみで済ますという措置を許していた。


 そして、このウェストラッド家も例に漏れずその対象となっていたため例年ジューダスが王都へと出向くことはなかったのである。


 だが。


「今年は王都へと出向くよう命じられた、ということですか」

「そういうことだ」


 一通り説明し終えたジューダスに対し俺がそう質問すると、ジューダスはふう、と一息つきながらそう答えた。


「しかし、何故でしょう……?」

「お前のことだから、薄々感づいているのではないか?」

「まぁ、僕の知る限りで今年大きく変化したことといえば一つしかないですが、それですかね……」

「そういうことだ」


 やれやれ、といった様子でそう答えるジューダス。

 そう、最近このパルマ領……コスターでは魔道具が人々の生活を少しずつ変化させていっている。そしてこの話は他の町、更には王都にも届いているのだろう。


「そうはいっても、私自身おそらくそうなるであろうことは覚悟していたのだ」

「そうなのですか? では、何故そのような表情を……」


 ジューダスの表情は、予めこのことを予期していたと言う割には暗い。


「カイルよ」

「は、はい」

「国王陛下の命である。私と共に、王都へと向かうのだ」

「……え?」


 ──どうやら、今年は簡単には過ぎ去ってはくれないようだ。

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