第12話 魔道具の完成とこれからのこと
ゴーダンに魔道具の成形を頼んでから三週間後、彼から「例のモノが出来上がったから来い」と言われたので、再び彼の工房を訪れた。
「お疲れ様です。カイルです」
「おう来たか。例の魔道具は一旦裏庭に置いてある。試して見な」
「ありがとうございます!」
そう言って俺はさっそく裏庭に行き、設置された魔道給水機を見つけた。
(おぉ……本当にイメージ図通りだな、さすがだ。俺の感覚からすると、THE・水が出る道具って感じだな……自分で言ってて意味わからんが)
そんな感想を抱いていると、ゴーダンがのそりのそりとやってきた。
「なにぼーっとしてんだ? 早速試すんだろ、俺もみてえからさっさとやってみてくれや」
「はい!」
俺はさっそく魔道具の取っ手……魔法式に魔力を送る印が刻まれたところ握りしめながら魔力を流し始める。
すると……
「お! 出て来ました!」
「こりゃぁすげえや! 水脈から引っ張ってるわけでもねぇのに水がドバドバ出てきやがる。まさに魔法様様だなこりゃ」
排水口となる部分からは、魔法式の起動によって生成された水が溢れんばかりに流れ、周辺を水浸しにしていった。俺はそのまま手を離すと、そのまま排水は収まるのだった。
「俺もやってみていいか? つっても魔力等級は青だが……」
「是非やってみてください」
「よしきた」
そう言ってゴーダンも同じように取っ手を握って魔力を流し始めた。すると同じように水が生成されることが確認できた。
「おぉ……全然魔力を消費しねぇじゃねぇか、なんなんだよこの魔法。これなら緑等級の奴らでも使えるんじゃねぇのか?」
「はい、僕としてはソレが一番望ましいと思っています。今後そこも試さないと……」
魔力を流す、という行為自体は若干コツがいるもののそう難しいことではない。慣れれば誰でもできるであろう。ともあれ、俺の魔道具作りはこうして実を結ぶこととなったのであった。
「実験は成功ですね。これなら水のない場所でも給水源を設置できるし、なにより手間がかからない」
しかし、そんな俺の言葉にゴーダンは少し神妙な面持ちで考え込む素振りを見せていた。
「どうしましたか?」
気になった俺が声をかけると、ゴーダンはゆっくりと言った。
「……いや、すげぇよ。これがあれば、水の少ない場所、枯れ果てた大地、砂漠でだって水を生み出せる。しかも魔力の少ない人間でも使える。そこは掛け値なしにすげぇ」
ただ……と彼は続けた。
「だからこそこの道具……というより坊主の魔法式の知識・スキルは《《重要過ぎる》》。頭の良いおまえのことだから俺の言ってることは分かってるよな?」
「まぁ、そうですね。わかっています」
ゴーダンが、魔道具そのものというより俺の魔法式に懸念を抱いてることは容易に想像できた。
これまで高い魔力を持つ人間にしか扱えない力だったはずの魔法。それが俺の魔法式を使えば、威力は低いかもしれないがそういった人間以外も扱えるかもしれない。
(過去、人類の医療史が戦争によって発展した側面があるように。あるいは人々のための技術が軍事転用されてしまう歴史があったように。俺のこの魔法式も、もしかしたら戦いの在り方に影響を与えてしまうかもしれない)
例えば、今は白兵・騎馬・弓による直接戦闘と魔法という強大な抑止力だけの戦争の形が、俺の魔法式が悪用されることで直接戦闘でも魔法を使うようになってしまったら?
そんなことは俺も、この魔法式を始めて作った時からずっと考えていた。生涯誰にも知られることなく墓場にもっていくべきか、それとも人々のために活かす道を選ぶか。そして俺は、その選択の決断をもうとっくに済ませていた。
「もし、この先僕の魔法式が人々のためではなく、私利私欲や暴力のために利用される可能性が僅かでもあるとしても」
「……」
「僕はそれでもこの力を人々のために使いたい」
「そいつが坊主の選択ってわけか?」
ゴーダンは俺の選択を否定しない。結局のところ、どっちが正しいかとかどっちが悪いかとか、これはそんな簡単な話ではないからだ。俺の魔法式によって救われる命があるかもしれない。だが同時に俺の魔法式によってこの先の近い、あるいは遠い将来に失われる命があるかもしれない。
だけど。
「その時のために、自分ができることを探していこうと思いますよ。この道具を作った人間の責任として」
「そんなこと出来るのかよ、ただの領主の倅のお前さんに」
「さあ?」
「さあって……おまえな……」
「でも」
例えそれが子供の絵空事であろうがなんだろうが。俺はそれを目指したい。目指せる力が今の俺にはあると、そう信じている。
「がんばってみますよ。僕なりのやり方で」
「そうかよ、ったく。ジューダスの小僧め、とんでもないガキを生んだもんだぜ」
「ありがとうございます」
「誉めてねーよ!」
そうして、ゴーダンとの魔道具作りはひとまずの決着を見て。
俺はその魔道具をさっそく家に持ち帰ることにするのだった。