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第10話 魔法生活のすゝめ その3

「おい、何だよありゃぁ……」


 ゴーダンは、水弾によってずぶ濡れになった的を見ながらそう呟いた。


「魔法ですよ」


 隣にいたジューダスが最早慣れたといった様子でそう伝えると、ゴーダンは尚も続けた。


「阿呆、俺だって魔法くらいみたことはあるし、職業柄魔法がどういうものかだって分かってる! だが俺の知る限り、()()()()()()()()()()()

「そこからは僕が説明します、父上」


 俺は、困惑するゴーダンに俺がこれまでに行った魔法の訓練について。そしてその結果本来ありえない筈の『侵されざる魔法』そのものに手を加える事に成功したことを伝えた。勿論、なるべく秘密にしてほしいということも。


「分かった……いやぶっちゃけ信じられねぇ。お偉い魔術師先生方がどうやったって四元魔法式そのものを書き換えることができなかったって話は魔法を多少知ってる奴らにとっちゃ常識だ。それをどうして八歳の坊主ができるんだよ。いや目の前で実物を見た以上は信じるしかねぇんだけどよ……」


 そんな俺の説明にゴーダンはいよいよ頭が痛くなってきたといわんばかりに頭を抱えて言った。


「まぁ、なんというか……できちゃいました」

「できちゃいました、じゃねぇ! ったくよ。領主様が自慢するわけだぜこりゃ……こんなことが王国の人間にでも知られたら一大事だぜったく……」

「いやはや、返す言葉もない……」


 ゴーダンの言葉にジューダスがやや申し訳なさそうにそう答えた。


「殊更広めて回るつもりもありませんが、王国の人に知られるとどうまずいんでしょうか?」


 俺はゴーダンの言葉が気になりそう質問した。危険だから命を狙われるかもしれないなんて言われたら俺はこれから一層秘密主義的に行動しなければいけなくなる。それはそれで面倒だ。


「あーいや、危ないってことはないとは思うんだが、もし知られりゃあどう考えても王国や学院の人間が放っておくわけがねぇ。年齢だとかルールだとかを捻じ曲げてでも手元に置こうとするだろうぜ。そうなりゃ間違いなく今みたいに自由な生活は送れなくなる。まぁどのみち今後学院で魔法を学ぶってなりゃ同じだろうが、少なくとも坊主は今ここでやらなきゃいけねぇって思ってることがあるんだろ?」


 俺の懸念の通りではなかったが、確かにゴーダンの言った話は俺にとってあまり良くない展開だ。勿論、今後学院に通うなかで俺の魔法が面倒の引き金になる可能性はあるからその時の対応は考えなければいけないが、少なくともそれは今ではない。

 なぜなら俺には、この町にいる間に何としてもやりたいことがあるからだ。


「そうですね……少なくとも僕は、先ほどゴーダンさんに相談させていただいた件を片付けるまではそういったしがらみに巻き込まれたくありません」

「だろぅ? なら今はまだその力を吹聴するようなことはよすこったな」


 てかよ、とゴーダンはジューダスの方を見ながら呆れ顔で続けた。


「おいジューダス坊、お前の倅は本当に八歳かよ? とてもじゃねぇがガキができる思考じゃねぇぞ」

「だから言ったではないですか。うちの子は天才だと」


 そんな様子を見たゴーダンはどうでもよくなったのか、はははと笑うジューダスを無視して俺に言った。


「お前がさっき工房で言った、『魔法の可能性』。その根拠は確かに見届けたぜ。そうと決めりゃさっそく聞くぜ。おめぇさんは魔兵器の何について聞きてぇんだ」


 どうやらゴーダンは俺のことを認めてくれたらしい。これでようやく本題に入れる。

 さっそく俺は、聞きたかったことをゴーダンに伝える。


「はい、その魔兵器……というより、道具を使ってどうやって魔法を行使するのか、その道具の作成方法を教えてください」

「やっぱこいつやべぇんじゃねぇのか……?」


 ゴーダンは朗らかに問いかける俺に対して、やや引き気味にそう言った──。



 ---



 場所は変わって、ゴーダンの工房内。そこにいるのはゴーダンと俺の二人だけだった。時刻はもう昼を回り、ジューダスは領主としての仕事があるとのことで家に帰っていった。

 まぁこのあたりはかなり平穏な土地柄なので、息子一人でも問題ないだろうという判断……と思ったがどうやら外でノアが待機しているらしいことに、外に出たジューダスとノアのこそこそ声を聞いて気付いた。はじめてのおつかいか?


「いいか坊主、魔兵器ってのがどんなもんかについて説明することから始めるぜ。理由は一つ、この世界で道具を使って魔法を行使するモノっていったらそれしかねぇからだ」

「わかりました」


 よし、と言ってゴーダンは、工房の端にあった埃塗れの本棚から何やら資料のようなものを引っ張り出し、俺に見せて来た。

 見ると、なにやら魔法式が刻まれた円盤のようなものの図面……というより絵だった。その周りを囲むように、人らしき印が複数描かれている。


「これが、魔兵器ですか?」

「おう、つってもこれはかなり簡素なやつだがな。ただ魔兵器を知るだけならこれで十分だ」


 そう言って、ゴーダンは魔兵器について説明してくれた。


 曰く、魔兵器とは複数人での魔法行使を可能とするための道具……兵器であるらしい。元々この世界では四元魔法式の行使にすら莫大な魔力を消費する。少なくとも、魔力等級が緑や青といった人間はとてもじゃないが行使できるものではないのが通説だ。

 そして、それを解決するために生み出されたのが魔兵器。

 つまり、魔術師同士の魔力を連結させることで本来一人では行使できない魔法を複数人で行使できるようにする媒介となるのが魔兵器、というわけだ。


「だからこれほど大きい、というわけですか」

「そういうこった。今見せた図は四元魔法式をベースに作った魔兵器ってのと、教材みたいなもんでもあるからかなり簡素だが、俺が昔見たやつはそれこそこの図の数倍のでかさのものだってあるぜ」

「想像するとまさに兵器……ですね」


 俺は素直に思ったことを口にした。


「そういうこった。だがこれを使えば本来魔術師の素質がねぇような奴らですら戦場に駆り出して魔術師の真似事をさせることができるんだ。そりゃ国は使うだろうさ」


 あまり認めたくない事実ではあるが、確かにそういう意味ではこの魔兵器は有用なのだろう。


「でだ、坊主が聞きたかったのは勿論こんなクソみてぇなモンのことじゃねぇよな?」


 黙りこくる俺に対してゴーダンはそう質問してくる。


「勿論です。こんなものは僕には不必要なもの。僕が知りたいのは、例えばそう、この図の魔兵器を手のひらサイズにして、そこに魔法式を刻んだりは可能かです」

「結論から言えば、可能だぜ」


 俺が緊張しながら聞いたところ、ゴーダンはあっさりそう答えた。


「理由だけ言えば、もう坊主もわかってるだろうが()()()()()()()()()()()()()だな。複数人で魔法を使うためにでかくしてんのに小さくしたら世話がねぇ」

「なるほど、道理ですね。とはいえよかったです、それでその刻み方についても教えてもらえますか?」


 俺は逸る気持ちを抑えつつそう質問を続ける。


「そうだな、まぁこればっかりは実際に見せたほうがはえぇな。ちょっとまってろ」


 そう言ってまたゴーダンは隅の方にある道具箱のような箱を漁り始めた。そして目当てのものを見つけたのか、引っ張り出して俺のところへ持ってきた。


「これが、道具ですか?」


 見れば、先の尖った鉱石……砥石のようなものだった。持ちての部分は布が巻かれている。


「そうだ。これが魔兵器の土台となるモノに魔法式を刻むための道具。名前を『魔刻器(まこくき)』っていう。そのまんまだがな」

「なるほど……これは何かの鉱石ですか?」

「あぁ、これは魔鉱っていう魔力を含んだ鉱石でできてる。魔鉱自体の用途は色々あるから今はいちいち説明しねぇが、この鉱石にちょこっと魔力を注ぎ込んでやると、そこらへんのモノに絵でもなんでも刻めるようになるって代物だ」


 なるほど、単純で分かりやすい。


「んで、もう一つがこれだ」


 魔刻器に続いてゴーダンが取り出したのが、先ほどの図面で見た円盤……の手のひらくらいのサイズのものだった。


「これは何だと思う坊主」

「ただの鉄じゃないんですか?」


 俺は訝しみながらそう答えるとゴーダンはあっさり答えた。


「ま、その通りだ」


(なんだ今の謎の問いかけは)


 俺は心のなかでずっこけた。


「だがむしろそれがいいんだぜ坊主。もし土台となるモノすら貴重だったら、坊主の言う道具とやらを作るための材料があほみたいに値が張ることになってたんだからな」

「まぁ、確かにそう言われればそうですけどね……」

「ともかくだ、材料と道具はこれで以上。あとはこの鉄の土台に魔刻器で魔法式を刻むだけってわけよ」

「意外と簡単そうですね。魔法式を刻むのは練習がいりそうではありますが」


 俺は思ったことを素直に口にした。


「ま、これだけ見りゃ確かに簡単そうだろうな。実際、魔法式を刻むこと自体も練習さえすりゃそこまで難しいことじゃねぇ」

「そうなんですか?」

「あぁ、ただ思い出してみろ坊主、これはあくまで練習用……元々の使われてた魔兵器の大きさはどれくらいだ?」

「あぁ……」


 なるほど、確かにあの図面以上のサイズとなると、今ゴーダンが手にしている魔刻器じゃとてもじゃないが魔法式は刻めない。


「想像の通りだ。ま、この魔刻器はあくまで魔兵器を作る上での練習用だから手のひらに収まるだけで、魔兵器を作るための魔刻器やその使い方はそれこそ全然ちげぇし、それを使って魔法式を刻むとなりゃそれこそ高い技術が必要になるわけだ」


 それはそうだろう、ただ俺は今回そこまでのものは求めていない。そのことはゴーダンも承知していたようで、そのまま話を続けた。


「とはいえ、お前さんはそんなものは必要ねぇ……そんな面してる。一応確認だが、おめぇの作りたい道具とやらは今あるこの魔刻器と土台でできそうか?」

「そうですね、土台のほうについては完成品自体の成形は必要ですが、サイズ感としはこれで十分です」

「なるほどな、となりゃほれ」


 そう言うとゴーダンは、俺に魔刻石と土台を放って渡した。


「その魔刻器と土台はくれてやる。というか土台ならおれの鍛冶の余りや屑鉄だってくれてやるから、とにかく練習してみるこったな。特に俺からアドバイスはねぇ。とにかく魔法式を刻んで刻んで刻みまくって発動するか試してみるこったな。勿論練習も発動も俺の目の届く範囲でやれよ」

「ありがとうございます!」


 俺はゴーダンに感謝しつつ、工房の一室を借りてさっそく魔道具の作成にとりかかるのだった。


 ──そうしてしばらくの間、俺は魔道具作りのためにゴーダンの工房と家とを行ったり来たりの生活を始めることとなったのである。

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