3日目:JCが燃やされた。
土曜日と日曜日。
両親が家にいるので、陽子はPCが触れなかった。
というか、パパが音楽聞きながら仕事に使っている。
かといって、出かけることができない。
一日中ず~っと、親に見張られてる感じ。
感染症対策前は、休みの日に家族みんなで居るのが楽しかったけど、今週は違った。
(友達と遊びたい。ゲームでみんなと話したい。)
そんな陽子の様子を見てなのか、日曜日の午後にママが料理をしようと提案してきた。
「陽子、クッキー作ろうよ。」
「そんな気分じゃないし。」
「気分転換には体動かすのと、甘いもの食べるのが良いの。生地を練ってティータイム。一石二鳥よ。」
「ふふっ、分かったママ。行くわ。」
ちょっと焦げて苦いのもできたが、ほとんどが成功した。苦いのはパパに任せて、結局、陽子はおやつの時間を十分に楽しんだ。
「ママありがとう。」
「外で遊びたいだろうに、我慢ばっかりでごめんね。」
陽子は、ママに感謝しながらも、どこかでやっぱりゲームのことが気になっていた。
(早く明日になれ!)
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【ゲーム3日目】
月曜日だ!ママもパパもお仕事に行ってしまった。
(やっと私の「お家」で遊べる!)
起動から検索、読み込みまでの時間がまどろっこしくて仕方ない。
『ようこそ!パステルミリタリーへ!』
この声を聞いて、陽子はソレイユになる。
「ただいま~。あれ?」
ソレイユは驚いた。笑顔で迎えてくれるはずのノームたちが、みんな怪我をしている。
何で?
部隊を編成しようとしても、怪我をしたノームは編成できない。
ソレイユは、挨拶も忘れてワールドチャットに書き込んだ。
ソレイユ「妖精たちが怪我してるの。どうしたら良いの?」
パンダバナナ「こんにちはソレイユ」
ソレイユ「パンダさん!うちのノームたちが怪我してる!」
パンダバナナ「たぶん誰かに攻撃されたんだwww」
ソレイユ「攻撃!?」
パンダバナナ「ん、個チャにするね」
ソレイユは慌てた。
「個チャって何?」
それが個人チャットの略だと知るのは一週間後だ。意味は分からなくても、チャット画面上部にある切り替えタブが光ったので、これのことかと思いクリックする。
パンダバナナの顔アイコンだけが表示されている。
「ワールドチャットだと騒がしいから、こっちで話そう」
ソレイユは安心した。このゲームに詳しい人と仲良くなれて良かったと心底思う。
「攻撃って何ですか?」
「戦争ゲームだから、プレイヤー同士が攻撃できる」
「じゃあ私やられたんだ。」
「右下のメール型のアイコン押して、戦闘報告を見て。いつ誰にやられたか分かるよ」
「ありがとう。」
ソレイユは右下の通知のアイコンを押す。
『戦闘報告:昨日13:03 敗北 CutieC(Lv45)』
(これか。こいつに私のノームちゃんたちがやられたのか。
でもレベルが高いし。私じゃ勝てない。)
再びチャット画面に戻る。
「CutieCって人に昨日やられました!」
「日曜は手当たり次第に燃やす人がいるんだ。特に外国人www」
「燃やすって何?」
「お家を攻撃すること」
「エーン、私燃やされて焦げちゃった・・・」
「イイコイイコ、大丈夫よ」
文字だけのチャットだが、パンダバナナの優しさを感じられて、ソレイユは嬉しくなる。
「ありがとう。」
「反撃する?」
「無理だよ。相手レベル45だもん。」
「どこかの連盟に入ったら?連盟みんなで反撃してくれるところもある」
「じゃあパンダさんと同じ連盟に入りたい。」
「私は今、どこにも入ってないんだよwww」
「そっかぁ。」
ワールドチャットで色んな連盟がメンバー募集をしているのを見た。連盟に加入するボタンがあるのも知ってる。
ただ、知らない人だらけの場所に入るのは勇気が居る。
「学校のクラス分けみたいに、どこかの連盟に割り振ってくれれば良いのに。」
「それはどうかな、合う合わないもあるし」
「どうしたら燃やされないかな?」
「バリア買って、張るwww」
「課金はムリだよ。」
「www私も」
中学生が親に内緒でやっているのだ。課金なんてとんでもない。
「日曜のランキングイベントって、燃やしたお家のレベルがポイントになってるから、弱いと燃やされる」
「そうかぁ、連盟入るしかないかのかな。」
「あとはレベルを上げる」
「それだ。」
まず取りかかったのが、妖精たちの回復。パンダバナナによると、放っておくと怪我が治るまで丸1日かかるらしい。資材を使って治療室を建てる。ノームたちはすぐに元気になった。
「資材でベットを作ると、一度に沢山の妖精が回復出来る」
「へ~。ぜんぜん資材足りないや。」
それから、ソレイユはパンダバナナにいろいろ教えてもらいながら、どんどんレベルを上げていった。
MPはレベルアップで全回復するから、直前で空にすることで、無駄なく使う。序盤のうちは集めた資材を妖精の強化に充てる。デイリーミッションやチャレンジミッション、イベントは漏れなくこなす。
ソレイユはパンダバナナの指示をしっかり聞き、メモも取りながら進めて行く。
「すごい!今日だけで16もレベルが上がった!」
「低レベルだから上がりやすいんだ」
「妖精たちもとっても強くなった。」
「まさかそのレベルでワーウルフ倒すとはwww」
「パンダさんのおかげ。ありがとう。」
「いいよいいよ。ついでに私もレベル上がったしwww」
今日も丸1日遊び続けてしまった。もうすぐママが帰ってくる。
「パンダさん、また明日。」
「じゃあね」
PCを終了する。
陽子はこんなにゲームに一生懸命になったことはなかった。
兄弟でもいれば違ったのだろうが、陽子は一人っ子なのでゲームなんてほとんど遊んでこなかった。
人と話しながらゲームをするのが、こんなに楽しいとは。
陽子は叫びたくなった。
「楽しい~!」