4話 妖精
数週間が経った。
関西弁の妖精(名前はアルノーと言うらしい)の力で、村の食糧事情は大分改善された。
生命力の満たされた畑では、作物の生育が著しく早くなるのである。農民達が狩りや採集にも手が回るようになっていた。
夜も更け、皆寝静まっていると塔楼から急電が入った。
コートを羽織り、刀を腰に差して松明片手に走った。
村の広場にはざっと150人のドワーフが座り込んでいる。
ボロ布の様な身格好で所々には血が滲んでいた。
「長老、何があった」
「隣の村が突然襲われたのです。バイク一台、自動車二台の偵察隊が突然村に侵入し、虐殺を行ったそうなのです。その中で奥地にいた村民は必死でここへ避難したと」
長老は慌てた様子であったが、頭は冷静であった。
「車両から所属は割出せたのか」
「ええ、東側の王国軍のようですな。大方聖教会の信者でしょう」
これがこの世界の迫害、いや、どの世界でも同じか。
宗教が絡むといつもこれだ。
「襲われたのは何時ほど前だ」
「2時半程でしょうか、最短で移動した場合2時間弱での到着ですので」
「了解した、ヴェルはここに待機させておいてくれ。アルノー」
肩元に黒色の影が生まれ、人の形を生していく。
東フラング王国 国防省 ――
「遠征の一部隊が消えたとはどういう事なんだ!」
一枚板の輝く大理石へグラスを投げつける。
割れた破片が飛び散り、部下の髪が赤色に染まっていく。
「跡にはクレーターが残るのみで、遺体の損傷も激しく・・・」
跪き震える下は見向きもせず、新たなワインを注がせる。
「ふんっ、戦闘があった場所は遠征団の溜まり場だったのだろう?ならその近くにも村があるはずだ」
「はい、仰る通りでして・・・偵察分隊を出しております。何分地方の村でして、遠征に向かわせた小隊が戦力の殆どだったのです」
舌打ちを吐き捨てた後に、煙草に火を付け、煙を流し込む。
少し落ち着いた様子で腰をおろし、重いかかとを振り落とした。
「これ以上戦力は割けん、どうせ放っておけば潰れる村だ。偵察隊には楽しんで帰ってこいと伝えろ」
ドワーフの名も無き村、のどかで静かな土地だったのだが。
家々はなぎ倒され、辺りには人間であった塊が散在していた。
「惨いな、利の無い悲しみは、ただひたすらに人を傷つける」
戦地に法はない。たとえ上が決めていても、下は血を流すことに変わりない。
肩の妖精が羽を震わせる。
「昔から変わらんな、この光景は」
「お前何年前から生きてんだ?」
「正確には生命体じゃねーけどな、1973年上から見てきた」
俺の100倍生きてるのか・・・それにしては年長者な雰囲気を感じられない。
奥からエンジン音が鳴り響く、戦争映画で聞いた古いものであった。だんだんと近づいてきている、まだまだ暴れたりない様だった。ヘッドライトが射し込み、闇に影が浮き上がる。
真正面に受け構え、柄に手をかける。
魔力が刀身に流れ鈍く光り、周囲の大気が歪む。
フロントガラスに歪んだ頬が垣間見えた。
巨体との距離僅か3尺、赤く染った刃を滑らせ切っ先を振り抜く。
車体が上下に空中分解し、燃えながら跳ねて行った。
マネキンがまた増えた。
刀身へ生暖かい液が染み渡っていく。
「ククク、ほんま不思議な得物やな。それで力を奪えるんやろ?」
両手を血で染め、妖精は不快な笑い声を上げていた。
「見た目は可愛い癖に中身は悪魔だよな」
「うるせぇやい!ふんっ。けどな長く生きて来たが、直接自分の能力値が上がる武器なんて聞いたことすらねぇ。体力に変換する魔剣とかはあったが」
確かに不可思議な武器であろう。
形は剛性のある薩摩刀に似せており、刀すら珍しいこの世界では目立ってしまう。その上に一神同体の特別な能力である。そのお陰で着々と俺のステータスは上がり続けてはいるが、悪目立ちは避けられない。
「話してなかったが、我は主と契約で繋がっている。簡単に言うと主が死ねば我も消えるゆうことや。くれぐれも無謀な事は控えろよ、上は化け物揃いやで」
生気の無い顔が橙色に染まっていた。