3話 迫害
寂れた村であった。
道路は整備されておらず、馬車すら碌に通っていない。
ヴェルの話を聞く限り、都市部の文明レベルは18~20世紀の西洋に似通っていて、初期のものだが自動車も走っているそうだ。格差の度合いがよく分かる。
迫害を受け、他村との交易や都市部からの支援もないのだろう。
見るからに痩せた土地で、無理に耕作をしている。
自給自足の生活ではどうしようもないのだ。
林をぬけた先に少しばかり大きな建物が見えてきた。
少女が早歩きで扉に入っていくと、中から老人がゆらゆらと寄ってきた。
「この人達が最近暴れ回ってた奴らを倒してくれた」
少女の急な暴露に長老は口が閉まらなくなっていた。
震えた声で何とか言葉を出している様子である。
「お、おぉ・・・猫耳の魔族様。申し訳ございません。このような村では禄なおもてなしが出来ませぬ」
「気にしなくていい、生活だけでも厳しいだろうに。というか、よく俺が魔族だって分かったな」
「私達とて混血とはいえ魔の血を引いております。感じられるのです、貴殿のオーラを。獣人族では出せませぬよ」
口を茶で濡らした後、彼はおもむろに窮境を語り始めた。
纏めるとこうだった。
教会が東西の緊張に紛れ遠征を行っており、迫害の勢いが強まっている。女子供は遊ばれた後連行され、男は火あぶり。村にも火が放たれる。異教徒かつ人外とみなされている彼らに、容赦は存在しない。
肩を縮ませた少女の目が刺さる。あの枯れた瞳は一体何を見てきたのだろう。私の中で憤りが積もっていく。
ひとしきり考えた後に咳払いした。
「俺は軍人だ。軍属たる者が民を見捨てるなど笑止千万。だが、現状のこの村で一揆を起こした所で結果は見えている」
一揆、虐げられてきた人々に残された最後の鍵である。
では具体的にどうすれば良いのだろうか。
手っ取り早いのは下克上、武力での革命である。
教会の軍を撃破し「混血種であり、魔族ではないドワーフに人権を認めよ」と抗議し要求を飲ませる。
しかし、述べた通り勝てる見込みはゼロである。
ならば彼らに必要なのは交易相手と技術力である。
国富を蓄え、領土を増やし、人口を増やす。
「この村には富がいる。ドワーフだし物作りは得意だろう?」
「ええ、金属加工は得意ですぞ。廃れた今でも小さいながら工場と鉱山もあります」
「なら工業を発展の基軸としよう。それで食料問題何だが・・・今は何を栽培してるんだ?」
芋の栽培を強化し、食糧の量を増やさせた。あれは何処でも育つ。あと、家畜のふんや草木灰を畑に撒かせた、肥料は多い方がいい。
「精霊の力は借りないのか?」
外へと出て棍棒のような杖を取りだし、何やら詠唱し始め数分後、半透明の光球が空から降り注ぎはじめた。光は畑の方へと誘導されて行き消えていった。
「魔法使い様、まさか今のは」
震える足でよたよたと歩み寄っていた。
「精霊魔法、今は呼び寄せることしか出来ない」
無い胸を張りご満悦であった。精霊は命の源、特に農業では重宝されるそうで、祭りも彼らのためにするのだと言う。
それなら俺もやってみよう、愛刀を杖代わりに掲げ、祈る。
詠唱は隣で囁いてくれた。
刃紋が揺れ始め、象形文字へと変わり神々しく光を放った。
詠唱が終わり、瞳を開けると天から蝶が舞い降りてきた。蝶はぼやけ変態し、小さな妖精へと形を変えた。
「神を秘めし者よ・・・って魔人のガキじゃねぇか」
感動を返して欲しい、見た目と声にそぐわず口が悪い様だ。
因みに隣も前も、口を開けたまま動かなくなっていた。
「ガキで悪かったな、というか神を秘めるってどういう事だ」
「あ?そんなことも知らねぇのかよ。まぁ仕方ねぇな、お前こっち来て間もない転生者だろ」
なぜ分かったんだ、侮れ無いようである。
「そうだが、なぜその事を?」
「妖精舐めたらアカンで、俺らは神に近い存在なんだからな。まぁいい、お前は中々に珍しい事案だからな。色々と教えてやろう。お前固有スキル持ちだろ、その顔は・・・図星やな。まぁ兎も角その刀には神が宿っとる。中級と言った所か、守護霊が神化したんやろうな」
この刀には守護神が・・・確かに不思議な点は多かったし、固有スキルも中々に強力なものだ。
「でぇや、ワシはお前に召喚された。普通はなワシレベルを召喚なんぞしたら卒倒やねん、大方その刀からお前に魔力が流れたんやろな。で、何を求める」
元々土地を肥やすために呼んだんだし・・・
「俺達はこの土地を肥やしたいんだ」
「そんなもんか、ほれ」
小さな手を前に突き出し、なにか唱えたかと思うと。
半球状に半透明なドームが作られ、翠色の蒸気で満たされていった。徐々に蒸気は地中へと染みて行き、最後にはドームも消えていた。
「いっちょ上がりぃと。どうや?わいの事おまんら舐めとったやろ。せや、因みに召喚した時点で契約は結ばれてんで、どう扱うかは自由やけど」
しれっと何を言っているんだこの関西人は。戦力にはなるかもしれんが、危うすぎないだろうか。
だが・・・済んだことは仕方がない、俺は諦めがいいのだ。