2話 目的
「あひゃひゃひゃひゃ!金目のもの全部だせぇえぇ!」
分かりやすく山賊に襲われた。
テントを張り、焚き火で暖をとっていた所であった。
周りを囲まれ逃げ場がない、中々に危機的状態のようである。
柄に手を置いたが自信はなかった。
「ガキた、マニア売れば結構金になるぞ・・・コレは当たりだぜ」
卑しい笑い声が森に響き渡った。
「山賊か、穢らわしい連中だな」
その瞬間、空間が冷え込んだ。
「貴様!遠征軍に向かって穢らしいだと?!」
何やら喚いているが無視する。
耳に囁き声が届いた。
「クロ、あいつら結構強い。未完成だけど戦略魔法を使う。3分もたせて」
まだ熊としか戦ったこと無いのに・・・。首を控えめに振り了解の意を示した。
「目を瞑ってろ」
そう一言だけ残した。
詠唱の声が届くと同時に足を踏み込み、手前の輩の首を刎ねた。
突然かつ予想外な行動に時が止まり、全てのヘイトが俺に集まる。その瞬間、閃光弾を投げつけた。
一瞬自分の視界を遮り、目の前で悶える者共を噴水へと変えていく。数分後には辺りが赤く染まり、服も鉄臭くなっていた。
しかし、手練もいるようで、数名は早くも復活していた。
皆ライフルを背負ってはいるが、獲物は槍や剣のようである。
素人目に見ても分かった、どう見ても格上だ。
全員少しの隙もなく、こちらの動向を先読みしようとしていた。
真っ向から額目掛けて穂先が迫るが、抜刀の勢いで叩き切る。
しかし隙をつかれ、左右から切っ先が迫ってきた。
目の前の腹を踏み台にし、致命傷を避けるも内心冷汗が全開であった。
着地しふと前を向くと、肩に大きな衝撃が走る。
目に真っ直ぐこちら向く長物が入った。
これは不味い、全身に緊急サイレンが鳴り響いた瞬間。
「またせた」
轟と地が鳴り、目の前が青蒼に染まる。
焦りが高まるが、不思議と風は周囲を鋭角に避けていた。
ヴェルが結界を張ってくれた様だ、流石にそこまでネジは外れていなかった。
嵐が過ぎ去った後、残っていたのは焦げかけた残骸であった。
四肢が欠損しても生きているのは流石という所である。
復活されたら困るので、すかさず首を跳ねていった。
存外玄人たちも最期は呆気なかった。
「クロ、怪我は?」
そう言えば、腹に刀傷、肩に銃弾が入ったはずなのだが・・・。
「あれ、治ってる」
つい心の声が漏れてしまった。
結構深い傷だった、そう簡単に元通りになるものでは無い。
思い返してみると最後、トドメを刺してから治ったようである。
まさかと思い解析で自分を見てみると、ランクは5、ステータス値も大きく上がっていた。いや、上がり続けていた。未だに数値が上昇し続けているのである。
試しに死体達を見てみると逆に魔力値が減少しつつあった。
額に雫が流れる。
「あぁ、大丈夫だ。問題ない」
震える声に少女は不審がっていたが、彼の強がりに乗る他なかった。一人、幹の陰からこちらを見ているのである。
両手には手錠が嵌められ、体は薄汚れていた。
「悪意は無い」
傍で少女は一言だけ俺に託した。
「君、名前は?」
幹の少女は少しづつ此方へにじり寄ってきた。
「アンナ・オルランド、東の森に住んでた」
深く、黒く枯れた瞳で眺めてきた。彼女は一体どんな世界を見たのだろう。
「ドワーフ、光に嫌われた種族。そう呼ばれ迫害されている」
確かによく見てみると薄灰色の肌をしていた。
ドワーフ、鍛冶師や技師のイメージだろうか。
「そんな非科学的な、迷信だろ」
「迷信だとしても、教会が認めてる以上真実になる」
教会、東の連邦のほぼ全国民に、西の帝国の一部から信仰を集めている大組織である。利益団体と化した宗教が絡むと碌なことにならない。
幹の少女は語り始めた。
「村が襲われたのに誰も助けてはくれなかった。もう村が幾つも滅ぼされた。人質は私一人」
彼女の瞳は枯れていた。
「なぁ、教会に逆らえる国はあるか?」
「ない。人族の殆どは信仰してる」
一部が勘づいていても、国は動かせないか。虚しいものだ。
「魔物は、知能の高い魔物はいるはず」
「確かに頭のいい種もいる、けど殆どは村が精々で戦力もない。その上ドワーフみたいな混血種すら迫害されてる」
正直今の状態では詰みであった。
だが、目を逸らして黄泉に行けない。俺は爺さん子なのである。憧れの人を裏切る訳にはならないのだ。
「お前は助けたいか」
「死なれたら目覚めが悪い。お前じゃない、ヴェル」
一応体裁は必要であった。彼ほど俺は素直ではなかった。
「同族の村に案内しろ」
その時、刀が拍動した。
この話はフィクションです。