1話 出逢い
安堵感に包まれたのも束の間、俺は何故か少女に銃口を向けられていた。
「所属不明の軍服に猫耳。怪しい」
確かに上下カーキ色の軍服に足元まであるポンチョ、腰には太身の薩摩刀。怪しげであるのに間違いない、
「実は自分記憶を無くして・・・訳も分からず・・・」
「そう、災難ね」
驚くことも無く銃を下ろした。疑いを知らないようである。
それにしても少女も大概な服装である。頭にとんがり帽子を載せ、ロープを見に纏い黒字に橙色の装飾。まるで魔女のようだった。何より背が小さい、小学校低学年ほどだろうか。口角は動かず目は半開きのままで無気力そうだった。
「私はヴェレッタ・ルーシエル。名は何という」
そう言えば此方での名前を決めていなかった。確か飛ばされる際に性別を失い容姿も変わっているはず。
「黒野みこと」
ネットでの名前にした。男性の名前では不審がられるだろう。
「クロ・ノ・ミコト見ない名前。容姿から察するに獣人で、歳は私より少し下の15、6ぐらい?」
思っていたよりも幼い見た目のようだ。それに猫人、どこかのゲームで猫耳アクセを着せた記憶があった。そして何よりこの少女が15歳以上だと言う。もしや小人族なのだろうか。
「今君、失礼なこと考えてた」
魔法でも使っているのだろうか、女性とは感の鋭い生き物である。
「まぁいい。森の道は複雑、私に着いてくるといい」
急ではあるが身よりも知識もない俺には、断る理由も度胸がなかった。
道中で様々な事を聞いた。生活や社会の仕組み、そして何より魔法。驚くべきことに、この世界には魔物や魔法が存在している。この子は魔法使いなのだろうか。
魔素は元素の一つであり、エネルギーの一種として捉えられているそうだ。魔法科学として研究されているらしい。
そして社会の話なのだが、中世の西洋と冷戦期が混ざっており東に連邦、西に帝国、それらの傀儡国である東王国と西王国が置かれている。連邦と帝国は古くから仲が悪く、東西王国の国境線では常に紛争状態なのだそう。
因みに人族の主な宗教は聖教会である。人族至上主義であり、魔族は穢れとして駆除対象とされている。そして彼らは思った通り、利益団体と化して暴れ回っている様子だ。
明くる日、魔法の基礎を教わっていると。
「自分のステータス見てみる?」 と聞かれた。
そう言えば見た事がないので、見てみることにした。因みに簡単な「解析」魔法ならば素人でも出来るのだそう。
練習を活かし瞳へと魔力を巡らせる。
〖「解析」Lv.1を獲得 〗
脳内に機械的な音声が流れ、目の前に文字が表示される。拡張現実・ARのそれに似ていた。注意を向けた対象の情報が見られるようになっている様で、手のひらを凝視すると文字が浮かんできた。
名前・クロ・ノ・ミコト
種族・仙貓
ジョブ・なし
ランク・2
魔力量・12
固有スキル
「生非ザル者」「付喪ノ力」
アクティブスキル
「刀術」「黒魔術」
状態異常
分かっていたことだが、数値を見る限り高いとは思えない。固有スキルは「付喪ノ力」、何だか大層な名前だが、記載内容は(付喪ノ神ト共ニ在レ)であり現時点で能力を理解するのは不可能に近かった。
というか状態異常ってどういうこと?
バフ的なものだろうか?
スキルを聞かれ、刀術の説明でその日は終わった。
夜の冷え込みが凄まじく、焚き火でポンチョが焦げた。