③生きろ
はずめ、ゆったど眼おどがったどき、誰が男の腕さきっつど抱ぎかかへえらぃてらど、思はれる。その男の腕さ力いっぺえすがみづいでろ、なあ、なあ、叫んで泣いたんた、気がす。男もかでで、たすかに、歔欷の声ばもらすてらった。「なだけだばって、強ぐ生ぎへ。」そうしゃべった。誰が、ぼやけてまって。まさが、父ではねえべ。浅草でわがぃだ、あの青年だがも。とにがぐ、霧中の記憶にすぎね。はっきりおどがって、めるど、病院の中だ。「なだけだばって、強ぐ生ぎへ。」そった声、ふと耳さよみがえって来てろ、ああ、あのふとは死んだんだ、と冷たぐふとりこまった。わの生涯の不幸、相がはらず鉄のやうにめごくねぐ膠着すてる状態ば目撃すて、わっきゃ、むったど、こうなんだ、と自分ながら気味悪えほどに落ちついだ。
ドアの外で正服の警官がふたり見張りしちゃあことばやっと知った。どうすんだべ。まねんた予感ば、ひやっと覚えたとき、どやどやと背広服着だ紳士六人、さぢよの病室さはって来だ。
「須々木、ホテルで電話ばかけたんだが。」
「んだ。」あわれに微笑んで答へだ。
「誰さかけだが知っちゃあ?」
こまった。
「そいづは?」
「わげえふとですた。」
「名前さ。」
「知らね。」
紳士だぢの私語、ひそひそと室内さ充満すた。