⑥無理だ
「待だなが。」青年は、その言葉ば待ぢがまえちゃあ。ゆったど、煙草さ火っこつけで、
「君は、いま、あの子ばおごろくす、としゃべったっきゃ。それは、間違い、書取のミステークめでく、はっきど、間違い。ふとは、ふとばおごろくはできね。いまの、この世の中は、きびすいんだ。一朝にすて名誉恢復、万人の喝采なんて、んだばろ、無智なロマンチスズムだ。昔の夢だ。須々木乙彦ほどの男もれ、それがでぎねえで、死んでまった。
いまは人間、誰さもめやぐかけねえで、自分ふとりばおさえるのも、そんきでも、大事業だはんで。そんきでもろ、でぎんだば、そいづは新すい英雄だ。おごろいんだ。ほんどの自信ちゅうのは、自分ふとりのはっきど杜会的な責任感でぎで、はずめで生れで来んだ。まづ自分ば、自分の周囲ば、おもやみしねよにおがらして、自分の小っちぇえふるさどの、自分のまづすい身内の、しっかど一兵卒さなっで、けっぱっで、そっからでねば、どった、わんつかな野望だばって、現実は、なんも、ゆるさね。賭げでい。
高野幸代は、失敗す。いまのままだば、どん底さ蹴落さぃる。火ば見るよりも、明らがだ。世の中は、ゆるぐね。きびすいんだ。むったど、むっだど、わーさは、いまのこの世の中のあらげねえの、しもるんた。なんも、どんぱち許さね。お互い、鵜の目、鷹の目だ。やしい。やなごどだばって、仕方ね。」




