①小さい頃
高野さぢよは、奥羽の山ん中さ生いだ。祖先の、いい血っこ流えでら。曾祖父は、医者だった。祖父は、白虎隊のふとりで、若くすて死んだ。その妹が家督ば継いだ。さぢよの母だ。気品高え、むっつらとしちゃあ女だった。養子ばへだ。女学校の図画の先生でら。峠ば越えで八里はなえだ隣りのまぢの、造り酒屋の次男でら。からだも、心も、弱えふと。高野のえさは、土地っこわんつかあった。女学校の先生ばやめでも、生活はでぎだ。犬ばかでて、鉄砲ばすよって、山ばあさぎまわった。い画ばかきてえ。い画家さなりてえ。その渇望が胸の裏ば焼ぎごがすて、だばって、めぐせがって、だまっちゃあど。
高野さぢよは、山の霧と木霊の中で、おがった。谷間の霧の底ばあさぐんが好ぎだった。深海の底だがどいうもんは、きっとこんきでら、と思った。さぢよが、小学校ば卒業すたとすに、父は、ふたたび隣りのまぢの女学校さ復職すた。さぢよの学費ば得るきな|がって/。さぢよは、父のいでらその女学校さ受験すて合格すた。はずめ、父どふたり、父の実家さ寄宿すて、毎朝かでて登校すてたばって、そいだば教育者どすて、なもまねんでねが、と父の実家がやしこかげでろ、弱え父は、そえもんだな、と一も二もねぐ賛成すて、さぢよは、その女学校の寮さはった。母は、ふとり山の中のえさ残ってろ、くらすてら。女学生だぢさ、さぢよの父は、ウリどいう名で呼ばぃで、あんま尊敬されでは、ねがった。さぢよは、おナスど呼ばらいだ。ウリの蔓さなったナスビどいうわけだと。事実、さぢよは、色っこ黒かった。わもれ、たんげ不器量だど信ずちゃあ。わっきゃ醜いはんで、心がげだげでも、いぐすねばまいね、と一生懸命、努力してらった。むったど、組長でら。図画ば除いでは、すべで九十点以上でら。図画は、六十点、とぎだま七十三点なぞどいうこともあった。じくねえ父の採点だ。