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⑦見たくない、帰れ。
十時に三木が、酔っでけえっだ。久留米絣さ、白っぺえごわごわす袴ばはいで、明治維新の書生だんた。のっづど茶の間さはっで、なんもしゃべらねえで、長火鉢の奥さ坐っちゃあ老母ば蹴飛ばすがどのけで、自分がその跡さどがらど坐っで、袴の紐ばほどいてろ、
「何すにきた」
坐っだまま袴ば脱いでそれば老母さなげで、
「ああ、母っちゃ。おめさ、わんが二階さ行ってけれ。わっきゃ、この子さ話っこあるはんで。」
二人ばすさなるど、さぢよは、
「自惚れんなじゃ、まねべ。わー、仕事の相談さ来たんだ。」
「かえれ。」家さいんどきの歴史的さんは、どごが憂欝すて、むんずがす。
「御気嫌、いぐねえな。」さぢよは、つけらっどす。「わー、数枝のアパートがら逃げで来たはんで。」
「あら、んだが。」三木はつぎね。がぶがぶ番茶ば呑んでら。
「わー、働ぐ。」そうしゃべって、自分さも意外な、涙っこあふれで落ぢで、そのまま、めそめそ泣いでまっだ。




