⑤心優しい人
嘘、とはっきど知っちゃあばって、汽車さ乗り、馬車さも乗り、雪道ばあさいで、わだち親子三人、信濃の奥まで、まわったんず。いま、思い出すても、へずねえな。
信濃の山奥の温泉さ宿っことって、そっがらまるっど一年、あの子は、降っても照っでも父さかでで山ばあさいでろ、日っこ暮れで宿さ、父のしゃべるんず、それば芝居ど思えねほど、ねぱり強く、ふたりで何だが考えで、話っこすで、あすはけねじゃ、あすたはけねべ、どちさも元気っこつけで、そすて寝で、まだ朝早ぐ、山さ出かけで、どこらかしこ父さ引っぱらされで、どんばちしかへられで、なんだばって、むったど深ぐこまっで、こえで帰ってきだ。
何もがも、朝太郎のおがげだ。父は、山宿で一年、けっぱれる日ばつんづけれで、かっちゃが、子供さも、おごろぐもえふりこいで、めぐせの見せねであずますくな死んだんず。
ええ、信濃の、その山宿で死んだんだ。わの山は見込みある、どだべか、身代二十倍さなんだ、と威張っで、死んでまっだ。めえがら、心臓、ずんぶいぐねがっだ。木枯すのおっかねぐ強え朝だ。めぐせ話だ。したから、あの子、見どごろあんべ。




