①移り住む
高野さぢよは、そのふとづぎほどめえ、三木ど同棲ばはずめでら。数枝いふと、死んでも忘へね、けっぱんねば、わー、死んでまる、なんも言えね、鴎は、あいは、唖の鳥だ、となんぼかわやっで言葉っこ書ぎ残すて、八重田数枝のアパートがら姿消すた。
淀橋の三木のえば訪れだのは、その日の夜、八時頃だ。三木はいねかったばって、ちっちぇく太った老母がいだ。家賃三十円ぐれえの、まんだ新すい二階建のえだ。
さぢよが、名前っこしゃべるど、んだが、とゆったど合点すて、噂っこ、朝太郎がらきいちゃあはんで、何やら、会があるんた、へるがら出がげちゃあばって、もう、そろそろ、帰るべ、あがってけれじゃ、と小ちぇえ老母は、やさすく招いだ。顔も、手も、つやづやすて、上品な老婆だ。
さぢよは、張りづめでら気もゆるんで、ぐっと、わがえさ帰ったんた、案内す老母よりさぎに、階下の茶の間へさっさどはって、あだがも、こぃは生ぎかえっだ金魚、ひらひら真紅のコートば脱いで、
「かっちゃ、だが。はずめでお目さががります。」どお辞儀すて、どうにも甘えだ気持さなり、両手そろえでお辞儀すながら、ぷつと噴ぎ出てまる。
老母は、平気で、
「はい、こんばんは。朝太郎、世話さなります。」ど挨拶っこすで、もふらっど笑っだ。
不思議な蘇生の場面だ。




