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⑧ひっかかる
と、書きかけで、そのままさなってら。
高須は顔っこ蒼ぐすて、わんつか笑い、紙片ば二づさ裂いだ。
「見せへ。あすめの約束だが?」
「おめさは、こぃば読む資格ね。」ばつらっとすた語調でしゃべって、さらに紙片ば四づさ裂いだ。「おめのめごがっちゃあ高野幸代どいう役者は、たげな名優だね。舞台ばすでねく、廊下さまで芝居ばふろげちゃあど。」
「そったごど言うなじゃ。」助七はわやついで、両手ば頭のうすろさ組んで、「ぐだめぐな。さぢよも、へごま書いたんだべ? 逢ってやりへ。うれすべ。」
助七さ、ぐんと背中ば押さぃ、青年は、よたづいで、何があずましい人間の真情ばその背中さ感ず、そのままふらどあさいで、一人で劇場の裏さまわってく。生れではずめで見る楽屋。




