④何をなさるお人なの?
その夜は、ふたり、帝国ホテルさ泊った。朝、中年の給仕人、そっと部屋さはって来て、びくっと止まってろ、そっから、おだやがに微笑すた。
乙彦も、微笑すて、
「バスは、」
「どんぞ。」
風呂がら出で、高野さぢよは、健康な、小麦色の頬ばしちゃあ。乙彦は、どっかさ電話ばかけだ。すぐ来いへ、としゃべる電話だった。
やがて、がばっとドアがあき、花だんた、ぱっと部屋ば明れくするんた笑顔にかって背広服着た青年、あらわれだ。
「乙やん、つぼけだなあ。」さぢよば見で、「こんちは。」
「あれは、」
「あ。持ってらはんで。」黒え箱ば、うぢポケツトがら出すて、「ずんぶのむど、死ぬはんでろ。」
「眠れねんだ、な。」乙彦は、醜く笑った。
「もっと、い薬も、あるんだばって。」
「今日は、休みへ。」青年は、或る大学の医学部の研究室さ、つとめてら。「遊ばねが。」
青年は、さぢよど顔ば見合せで、笑った。
「どへ、休んで来だんだべ。」
三人で、ホテルば出て、自動車ば拾ひ、浅草さ。レヴユウば見た。乙彦は、わんつか離れて座っちゃあ。
「ねえ、」さぢよは、青年さ囁く。「あのふと、むったど、あったらに無口なんず?」
青年は、なんもなんもど笑った。「いや、今日は特別だんた。」
「だばって、わー、好きよ。」
青年、頬ばあけくした。
「小説家?」
「なも。」
「画家?」
「なんも。」
「んだか。」さぢよは、何がふとりでこまった。赤え襟巻ば掻き合せで、顎ばうづめだ。