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②上っ面
「さぢよの居どごろは、わっきゃ、知っちゃあ。」
三木は、落ちつきば見せるだめ、煙草ばとって、マツチばすった。雪の原ば撫でてくそよ風、二度も三度もマツチの焔ば吹っ消す、やっと煙草さ火ばつけで、
「すたばって、わとは、なんも無え。あのふとは、いま、一生懸命、勉強すちゃあ。学問すちゃあど。わっきゃ、それは、あのふとのだめに、いことだど思っちゃあ。あのふとさ在るんは、氾濫すちゃあ感受性ばすだ。そればとろけて、統一すて、行為さ移すに、わっきゃ、やっぱり教養、必要だど思う。叡智も必要だど思う。山中の湖水だんたしゃっけぐ曇りね一点の叡智が必要だど思う。あのふとさは、それがねはんで、むったど行為があらげねくて。たどえば、おめだんた男さみごまぃで、そえで身動ぎでぎねで、――」
「めぐせくねが。」助七は、せせら笑った。「けさがら考えに考えで暗記すて来たんた、せりふばしゃべんな。学問? 教養? めぐせくねが。」




