①やめろ、やめるんだ。
東京では、昭和六年の元旦に、雪っこ降っだ。未明より、ちらぢら降りはずめ、昼ごろまでづづいだ。昼少すすて、戸山原の雑木の林の陰っこさ、外套の襟ば立てで、無帽で、煙草ばふかすて、かつくつどあさぎまわっちゃあ男が在でら。こぃは、どんやら、善光寺助七だ。
べろっと木立のがげがら、もうふとり、二重まわす着だ小ちっちぇえ男があらわれだ。三木朝太郎だ。
「つぼけなやづだ。もう来ちゃあな。」三木は酔ってらんた。「ほんとうに、やる気なんが。」
助七は、答えねえで、煙草っこ捨で、外套ば脱いだ。
「待で。待じろ。」三木は顔ばすかめだ。「やばちい野郎だ。おめはいってえ、さぢよばどすべどしゃべるんだが。ただ、腕づぐでも取る、戸山原さ来い、片輪さすける、だば、わっきゃ君の相手になってやるのもできね。」
ものもしゃべんねで、助七うってかがっだ。
「まね!」三木は、飛びのいだ。「逆上しちゃあな。いが。わの話ば、しったど聞げ。ゆうべは、わーも失礼すた。要ねごどしゃべってまった。」
ばんげは、新宿のバアでかででのんだ。かねで、顔見知りの間柄だ。ふと、三木、東北の山宿のごどに就いで、口ば滑らせだ。さぢよの肉体ば、ちらどしゃべった。そっがら、んだば、さぢよはどごさいる。知ね。嘘づげ、おめがかぐすた。おげやい、見っどもねえぞ、意馬心猿。そっがら、よす、腕づぐでも取る、戸山原さ来いへ、片輪さすてける、ということになってまった。三木も、蒼ざめで承知すた。元旦、正午ば約すて、ばんげはわがぃだ。




