⑥お前だけは違う
歴史的さんの部屋さは、原稿用紙がそんどで、ビイル瓶五、六本、テエブルのわきさ並んじゃあ。
「こうしてろ、ふとりで呑んでは、わんつか仕事ばすんだばって、なんもまねくて。どった奴ども、わーよりうめえ気すて、もう、まねじゃ、わっきゃ。没落だよ。この仕事、でぎあがんねんだば、東京さ帰れねす、もう十日以上も、こった山宿さ立てこもっで七転八苦、めでられね仕末さ。さきたね、女中がらおめの来てるんば聞いで。呆然どすたね。心臓、ぴたど止まったじゃ。夢で、ねがと。」
テーブルのすっぺさひっそり坐っちゃあ小っちぇえさぢよの姿ばやさすくめで、
「わっきゃ、つぼけだんたことばすしゃべっちゃあ。それごそ歴史的だ。てれくせえんだよ。からだばすわぐわぐしてまって、なんもなね。」ふと眼ば落すて、ビイルば、ふとりで注いで、ふとりで呑んだ。
「自信ば、持ってけれじゃ。わー、うれしいの。泣きてくて。」嘘は、ねがった。
「わがる。わがる。」歴史的は、うるだぐって、「だばって、よかった。へずねかったべ。いんだ、いんだ。わっきゃ、ずんぶ、までに知っちゃあ。みんな知っちゃあはんで。こんどの、あんことでも、わっきゃ、なんも驚がねんだ。いちどは、そごまで行ぐふとだ。そこばぐぐり抜げねば、いけねふとだ。おめの愛情さは、底ねえはんでな。なんも、感受性だ。それは、わんか驚異だ。わっきゃ、いって、どった女さも、い加減な挨拶で応対すて、まだ、そえでなんぼかいいんだばって、おめだけさは、それができね。おめさは、わがられでまるはんで。油断なね。なすてだべ。そった例外は、ねえ筈なんだばって。」




