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⑤歴史的さん
このまま溶かすてえほど、こえくてろ、まだ提燈持って石の段々ばふとづ、ふとづ、のぼって部屋さけえるのだ。宿は、たげでったらだ。まんず暗く長え廊下さなんぼも部屋がならび、とごろどごろの部屋の障子、ぽつっど明るく、その部屋部屋さだげ、客がいるの、わがるのだ。一ばんめの部屋は暗ぐ、二ばんめの部屋も暗ぐ、三ばんめの部屋は明るく、障子がすっとあいで、
「さっちゃん。」
「だえだば?」おどろぐ力もねがった。
「ああ、やっぱりんだべ。わーだよ。三木、朝太郎。」
「歴史的。」
「んだ。よぐ覚でらね。ま、はいりへ。」三木朝太郎は三十一歳、じゃんぼは薄くなっちゃあばって、派手な仕事ばしちゃあ。劇作家だ。なんぼか、名前も知らぃでら。
「おどろぎだ。」
「歴史的?」
三木朝太郎は苦笑すた。歴史的どしゃべるんが彼の酔っぱらっちゃあとぎの口癖だとこで、銀座のバアの女だぢさ、歴史的さんと呼ばぃでら。
「まさに、歴史的だ。まあ、坐ってけれ。ビイルでも呑むが。わんか寒いが、君、湯あがりに一杯、ま、いいべ。」




