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①お願い
さぢよは、まんた汽車さ乗った。須々木乙彦のことが新聞さ出で、さぢよもその情婦どすて写真まで掲載さえ、とうとう故郷の伯父がきてまった、警察のふとが中さはり、さぢよは伯父どかでて帰郷すねばなんねくなった。謂はば、廃残の身だ。三年ぶりに見る、ふるさどの山川、ぶわりい思いだった。
「ねえ、伯父っちゃ、おねがひ。わっきゃ、こぃがらさがしくすはんで、さがしくすねばまいねんだはんで、わーばただでねくおごらねで。まぢのけやぐとも、誰ども、顔ば合せてくねの。わーば、どっかさ、かぐすて、ね。わー、なんぼでも、さがすくすはんで。」
十二、三歳のめのこだんた、さぢよは汽車の中で、なんぼでも懇願すた。親戚の間で、この伯父ばし、さぢよば何がど不憫がっちゃあ。伯父は、承諾すたのだ。故郷のまぢの二づ手前の駅で、伯父どさぢよは、こそらど下車すた。その山間の小駅がら、くねぐね曲がっちゃあ山路ば馬車でゆるがして、約二十分、谷間の温泉場さ到着すた。




