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③けむたい
さぢよは、静がに窓のカーテンばあかだ。わだば、病院でこの善光寺助七の腕さ抱がさって泣いてまった。
「おめは、いづがら来ちゃあの」しんぷて語調だった。
「わあが?」死んだ大倉喜八郎翁さふとずの丸っけえ顔ば、がばっとあけくして、子供だんた笑いばしちゃあ。
「ほんの、わんつかめえだ。けさ早ぐ警視庁さ電話すたっきゃ、なんどの出るんばしかへてけたはんで、とにがぐ、こごさ来でめたんだ。すたのばさま心配しちゃあろ。いねどきに何度も何度も刑事来でろ、この部屋ばちょしていったんだど。ばさまさ、わがら、うめぐしゃべっておいだ。まあ、ねまりへ。」さぢよの顔ば笑ってそっと見れ、「いがったね。まんず、おめは、無事で、――」涙ぐんでら。
さぢよは、机の上さ片手ばついで、崩れるようにねまって、
「いぐねえわ。煙草ねの? きたえだ、わー、おめの顔ば見るど、急に、煙草ほすくなるんた。」
「こぃは、までえだな。」助七は、そんでも、恐悦だんた。




