①何なのよ
男だば、何人ばも、いるはんで。そう答えたかったばってろ。わはみそくたねえってめぐせのに、ふとから美すいしゃべられる女は、なんぼいぐねえんだが。風の音さ、鶴唳さ、おっかねがって、一生涯、おかしけた罪悪感ど闘って行がねばまね。高野さぢよは、美貌はねえ。だばって、男は、さかんだ。精神の女人ば、宗教でさえある女人ばも、肉体がらおへる、という悪魔の囁きは、あめに男ばはんかくせくす。そのごろの東京さは、モナ・リザばはだがにすてみたり、政岡の亭主ば考えでみだり、ジヤンヌ・ダアクや一葉ば、そっくど女体どすて扱うこええ好色、一群の男だぢの間で流行すてら。そった極北の情慾は、謂わばあの虚無でねのが。すかもニヒルさは、浅えも深えも無え。それは、きまってら。浅えもんだ。さぢよの周囲さは、わったがっぱど男がたがった。その青白え油虫の円陣のまんながさいで、女ふとりが、何か一づの真昼の焔の実現ば、愚直に夢見で生きるんだば、なもまね。
「おめは、どう思んず? 人間は、みんな、同ずなんだが。」考えだ末、そったことばしゃべった。「わっきゃ、ふとり、ふとり、みんな違えと思うんだばって。」
「心理だが? 体質だが?」わげえ医学研究生は、学校の試験さ応ずるんた、あらたまった顔づきで、そう反問すた。
「なも。わー、きざだっきゃ。わんつか、気取ってみだばし。」わんかめえに泣いてらふととも思われぬほど、かん高く笑った。歯氷のようにかがやいで、美すかった。




