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⑥ぼけかます
「なもなも。わのことだっきゃどでもいんだばって、」青年は、あれこぃしゃべっちゃあうちに、この一週間、自分のへずねさば思いだし、わんつか不気嫌さなって、「おめは、こぃがらどすんだか? わの下宿さ来るか? そえども、――」
ふたりは、もう帝劇のめえまで来てまってら。
「入舟町さけえります。」入舟町の露路、髪結さんの二階の一室ば、さぢよは借りでらった。
「は、んだが。」青年は、事務的な口調でしゃべった。たんげ不気嫌さなってきた。「送るが。」
自動車ば呼ばって、ふたりで乗った。
「おふとりで居ちゃあんだが。」
さぢよは答えね。
青年の、ぼけしちゃあ質問さ、むつらっとして、ぐっと別な涙、きまげる涙、沸いで出て、そえでも思い直すて、かなすく微笑んだ。このふとは、なんも知らねんだ。わんどが、どったにみずめでかって、へずねえ生活ばしちゃあのか、この坊ずは、なんもわかってねんだ。そう思ったら、微笑、そのまますみづいて、みるみる悪鬼の笑いさ変わってまった。




