④何も知らぬ
あらんどの私語、ひそひそ室内さ充満すた。
「まあ、い。こぃがらはけて警視庁さ来てけれ。あさげねことは、ねえべ。」
自動車さ乗せらぃ、窓がらちまたば眺めるど、ふとは、寒たくに肩ばすくめで、あへずがしくあさいじゃあ。ああ、生きてらふとが、がっぱいる、と思った。
留置場さ入って、三日、そのまま、ほって置かぃだ。四日目の朝、調室さ呼ばぃで、
「やあ、君は、なんも知らねんだ。はんかくせえ。けえってけれ。」
「はあ。」
「帰って、いいはんで。こぃがらは、気つけい。まともに暮しへ。」
ふらふら調室から出るど、暗え廊下さ、あの青年が立っちゃあ。
さぢよはわんか笑ってろ、そのまま泣げ出す、青年の胸さ身ば投げた。
「かえりましょう。わーさは、なんだば、わげわがね。」
このふとだ。あの昏睡のときの、おぼろげな記憶がよみがえって来だ。あのときわっきゃ、このふとさ、すつかり抱がさってらった。こまって、つと青年の胸がら離いだ。
外さ出で、日のひかりが、まぶしくてろ。二人だまって、お濠さ沿ってあさいだ。
「どうしゃべろうか、」青年は煙草さ火ばつけた。ひょいと首ば振って、「まんず、どまついたなあ。」たんげ興奮しちゃあ。
「すまね。」
「いや、そのことでねくて。なも、そのことも、ただでねばって、それよりも、乙やんが、いや、須々木さんのこと、おめは何も知らねんだか?」
「知っちゃあ。」
「おや?」
「亡くなってまった、」しゃべりかけて涙っこ頬ば走った。




