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湿気った花火のように

作者: アレン



たくやって、さなのこと好きみたいだよ。



そう言われたのは、GW中のことだった。



バイトを一日だけ休み、友達と2人でカフェで語ってた時のことだった。



カフェオレに沈む細かい氷たちをクルクル回す手が止まる。



そんなわけないよ


なんで?どうしてそう言いきれる?


間を一切開けずに聞かれた。



そんな感じしてないから。


ふぅん。



たくやと、急激に仲良くなったタイミングがあった。


年度末、サークルでコテージに皆で泊まった時。


でも、でも



まぁ、イケメンだし。性格も悪くないから

ちょっとは考えてみたら??


ちょっとは考えてみたけれど、6月になって7月を迎えても、想像することが出来なかった。






ねぇ、花火行こ


突然、たくやが私に話しかけてきた。


え、花火?!



____さなのこと、好きみたいだよ。



不覚にもドキッとした。



…他に誰かいるの?


誰かサークルの人がいるなら、いいかな。



誰も誘わないとしたら?



____さなのこと、好きみたいだよ。



じゃあ、誰か誘お。


複雑そうな心境が透けて見えたのだろう。

そう言ってたくやはクルっと引き返した。



………まって!!!!!!







7月の下旬。

花火大会最寄りの地下鉄の駅には、壁にベタっと張り付いたようなコンビニがある。

浴衣を着た人、制服の人など、いつもより10倍くらいの人がソワソワとその時を待っていた。



おまたせ!


地下鉄になかなか乗れなかった為、五分ほど遅れてしまった私は、いつもより髪の毛が決まったたくやをみつけた。



スマホを片手にパンツのポッケにもう片手を入れていたが、私が声をかけると身体がピクっとし、「おう」といった。


ヒシヒシと伝わる。緊張してる。

いつものように、を精一杯演じてる。



会場までの道には、少しだけ屋台があって


…男の人と2人で歩いてるだけなのに

浴衣を着たカップルばかり目に入る。



なんか食べる?



正直、食欲はない。

夏バテなのか、この状況だからなのか。



たくやは、無言できゅうり一本漬けをふたつ買った。



塩分と水分は取ったら?



たくやからそんな単語が出るとは思わなくて

クスッと笑ってしまった。



ありがとう



彼はその後、ラムネも買ってくれた。



なにかのバンドなのか、楽しそうな爆音がここからも聞こえてくる。

河原に腰を下ろした私達は

なんとも言えない、息苦しい無言の時間を過ごした。



…なんで浴衣にしなかったの??



突然、たくやが口を開いた。



…浴衣持ってないの。



そうなんだ。



せめて、髪型だけでも工夫すればよかったかな?



…でも、去年は浴衣着てたよね??


その言葉で、私の背筋が凍った。



なんで知ってるの??



…単純に見かけた。





…去年はね、きよちゃんと浴衣着ようってなったから、レンタルしたの。




んで、リクも居たから????



リク…りっくん…。



違う!!!!!!!


ハッとして、私は勢いよくたくやに言った。





何が違うの?俺何もまだ言ってないよ??



なんか、無性に胸がザワザワしてきた。




…なんで、別れたの??


悲しげに、私を見ないで欲しかった。

去年の話は、思い出したくない。



ほんとは花火なんてしばらく行かないって思ってたのに。


私はなんで、引き受けてしまったんだろう。





____好きな人じゃないのに。


そんな安っぽい女に、いつの間にかなっちゃったんだ。

親友とか、幼なじみとかじゃないくせに。



…きっと、りっくんがこの光景をみたら、嫉妬してくれるかもしれないってどこかで思ってたのかもしれない。


最低な女だ……………。



無理矢理付き合わせて、ごめん。


静かに、たくやが言った。


花火大会、一緒に行ってくれるとは本気で思わなかった。

めっちゃ嬉しい。

だから…もうこのチャンスは逃したくないんだ。




_____花火終わったら、話がある。




胸の高鳴りが激しくなった。


もう、花火が終わったら何が起こるのか

痛いくらいわかっている。




花火が空を彩る時

私は落ち着いて楽しむ余裕がなかった。


私の左手には、彼の右手が徐々に重なり

最後にギュッと握られた。


不思議と、身体は拒絶反応を出さなかった。

だが、胸に広がってる子の感情は間違いなく

ドキドキの中に罪悪感と焦りと“なんか違う”という

言葉にしきれない、ザラザラとした感情だった。



ラムネが、美味しくないレベルにぬるくなった。




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