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勇者の妹  作者: 虚言挫折
第七章:帰還
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98.旅の終わり

脅威の完全排除から数日が過ぎた。

私達は想像以上に疲弊していたようで、丸一日寝たままだったらしいが、起きてからはすぐに普通の生活習慣を取り戻していた。

王も負傷して回復まで時間がかかるとのことなので、それまでは城の中でうろうろする日々を過ごすことになった。私の日課は、アルトナを相手に訓練場で槍の訓練をすることだった。兄はこれまでの旅路を報告するように言われて、ユマさんと一緒に書記官に面会に行っているが、毎回あまりにも話が長くなりすぎるようでほとんど戻ってこない。

ガイレルは尋ねてきた森長に会いに行き、シラナは怪我人の手当てに忙しい。私達にも何かすることがあるのではと思ったが、バーヴル率いる山賊たちがほとんどの事後処理を終わらせてしまい、本当にやることがなかった。

「メリド王子はどうしてるんですか?」

「カラギさんと会議だってさ。まあもうしばらくかかるだろうな。六国とはどうなるんだろうな」

「すぐに解決することはないと思います。でも、きっと大丈夫だと思います。願望も込みですが」

「だといいな」

私とアルトナは訓練場の適当なベンチに座って、建物に囲まれて四角く開いた青空をぼんやりと見上げていた。

「こんなに穏やかに暮らすの、久々ですね…」

「俺はほとんど始めてみたいなもんだな。ずっと忙しかったし」

隣でそう呟く口調は自虐的だったが、表情は晴れやかだった。

「お前は兄を見つけて連れ帰って来たし、俺たちはお前の目的のために旅をした。だからひとまず旅は終わりだ」

「そうですね」

それ以上言葉をつづけることはできなかった。胸の中で言葉がぐしゃぐしゃに渦を巻いて、息を吐き出せなくなる。深呼吸をすると、吐き出した息とともに涙がぼろぼろと落ちてきた。

「や、やだ」

視界がぼやけて歪む。涙を拭きながらアルトナの方を見ていたが、表情どころか輪郭すらもよく分からない。

「はあ!?おいこんなところで泣くなよ、俺がなんか悪いことしてるみたいだろ!」

「すみません…」

絞りだしたような謝罪に溜め息をついて、アルトナは呆れた。

「会おうと思えばまた会えるだろ?だからそんな、泣くようなことなんかないだろ…」

「そうです、そうですね…」

納得しようとしても納得しきれず、涙が止まらない。アルトナはそれ以上何も言わず、ただ私が泣きじゃくるのを見ていた。ひとしきり泣いた後、アルトナは私に静かに語りかけた。

「お前の住んでる村って、どこにあるんだ?」

「え?」

「そんなに別れるのが嫌なら、しばらく居てやろうか?」

一瞬だけ何を言っているのか理解できず、きょとんとしてアルトナを見た。お前がいやだって言ったんだろ、と人差し指で額をちょんとつかれてようやく言っている意味を理解した。

「いいんですか!?」

「いいよ。国に戻っても俺ができることはないし、暇になるだろうからな。妹に確認はするけど」

「…ありがとうございます」

「まあそんなに長く滞在しないとも思うけどな」

「それでも、嬉しいです」

アルトナは沈黙して、私から視線を逸らした。きっと照れているんだと思った。

こんなふうに気持ちが少しだけ分かるようになったのは、長く旅を続けてきたからかもしれない。

ふと廊下を見ると、向こう側からシラナとガイレルが歩いてきた。

「ここにいると思ってたよ」

ガイレルが微笑んだ。

「王様に代わってメリド王子から、お二人にも半月後の記念式に出席してほしいとのことです」

「おお、俺たちにもそんな話が回ってくるとはな」

「私達の他にはレンデ様やユマ様、兵士長、バーヴル様も出席するそうです。これを機に王権をメリド王子に贈与することも考えられているそうです」

「それが終わったら二人はどうするんだ?」

「僕は森長とは別の森を治めることになると思うよ。六国との国境に近いところ」

「私は国に戻ります。エシトラ様とエミイと、皆が待っていてくれると思います」

「じゃあ、しばらくはお別れですね…」

拭いきったと思った寂しさが蘇り、押し殺そうとしても言葉に乗ってしまう。シラナがそっと手を握って、穏やかに語りかけた。

「大丈夫ですよ。私たちは、一度は巡り会うことができたのです。これからまた何度でも巡り会うでしょう」

日差しが昇り切って、私たちを照らした。

私はシラナの手を握り返した。

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