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勇者の妹  作者: 虚言挫折
第七章:帰還
97/99

97.途切れ途切れ

向き合った相手はますます身もだえして、一層苛烈に攻撃を続けている。

私達の攻撃は数の力で遮られ、膠着状態にあった。

「どこからこんな量が…」

「脅威はそれ自体が複製能力を持つ。外部からの栄養や魔力を必要とせず、とにかく複製されるのだ」

カラギさんが後ろから魔法で影を打ち落としながら説明する。アルトナは心底嫌そうな表情で影を薙ぎ払った。

「脅威本体ほどの攻撃力はないが、確実に私たちの攻撃を阻止する手堅さがある。相手のペースに持ち込まれると不利になるはずだ。今は脅威が広がらないように防ぐことを第一に考えるべきだ」

「言うのは簡単だけどね…」

レンデが複数の影にまとめて電撃を直撃させながらため息をついた。レーグは自分の支配域を無理やりに押し広げようとして魔力を凝縮させようとしているが、ユマさんが光弾を放って霧散させる。

「だが事実、私たちは脅威の拡散を阻止している。きっかけはすぐそこにあるはずだ」

「来る」

ガイレルが先頭で身構え、手を思い切り横に開き、防御魔法を展開する。影は全て弾き飛ばされるかガイレルの体に刺さった。シラナの魔法で、傷はすぐに回復した。

泥臭くて先の見えない戦いに、ずぶずぶと沈み込んでゆく実感が私たちを覆い始める。小さな負傷が増え始めている。

影が伸び、勇者の頬から血が落ちる。その一滴は脅威の影に落ちて僅かに光り、そしてすぐに消えた。

「あれは…」

ユマさんが目を見開く。

「レンデの血が、光った…?」

「なんだって?」

「血が光った…!しかも魔力由来の光だった」

聞き返すアルトナに、ユマさんがもう一度答えた。

カラギさんがそれに反応して、防御魔法をかけなおした。

「方針を変える。私とミトナとレンデで脅威の防御を突破し、本体であるレーグを回復する」

「できるのか?」

影を切り払ってユマさんが問うと、カラギさんが頷く。

「勇者と魔王は、その血に呪いを秘めている。だが呪いに必要な魔力を解き放って攻撃に回せば、影を突破できる。そして、脅威が破壊しつつあるレーグの自我を魔法で回復させる。自我は肉体に宿り、肉体とともに回復したりすり減ったりする。宿主に自我が戻れば、脅威はその力を弱めるはずだ」

私達は空中で陣形を変えながら、攻撃の用意を始めた。

「シラナの回復魔法をガイレルが繋ぎ、私達でレーグに伝える。ユマとアルトナで脅威を削り切れ」

脅威の攻撃が一瞬だけ止まった。誰が言うでもなく、全員が前に進んだ。

「魔力の開放なんてやったことあるのかよ?」

「ないな」

アルトナの問いに、カラギさんはあっさり答えて、にやりと笑う。

「だが、歴代の勇者には兄弟も姉妹もいなかったが、レンデにはミトナがいる。これは呪いが弱くなったか、魔力が集まっても呪いを構成しなくなったかのどちらかだ。好機に違いない」

「やるしかないね」

シラナがガイレルの背に手を置き、ガイレルがレンデの背に手を置き、レンデの右手から私に、左手からカラギさんに、回復魔法が伝わる。ユマさんとアルトナが目にもとまらぬ速さで影を切り刻んでいく。

私とカラギさんが本体のレーグに迫る。間に入り込もうとする影が弾かれ、刻まれ、飛び散ってゆく。その隙間に、強い光が弾けては消える。

手から力が確実に伝わる。

「届け」

本体に、レーグの額に触れた。

もう脅威に取り込まれかけていた全身が一気に人の形を取り戻してゆく。神経質な表情が蘇る。

「聞こえるか!?そのままだと取り込まれるぞ!」

「ゆ、勇者か…?」

「そうだレーグ!早く振り払え!」

「無理だ…き、脅威は…あまりにも…」

レンデは私達から手を放して、両手でレーグの頭をわしづかみにした。その目は真っ直ぐにレーグを見据えている。

「無理なはずがないだろう!自分が積み上げてきたことを思い出せ!」

「私が…?私が…」

朦朧とした視点が、ぼんやりとレンデに焦点を合わせようとする。

「卑劣な手段でもなんでも使ってそこまでのし上がったはずだ!他人がどう肯定しようと否定しようと、君にはそれだけの力があるんだ!だから…こんなところで、立ち止まってる場合じゃないだろ!」

私とカラギさんは片手でガイレルの手を握り、もう片方の手でレンデの背を支えていた。

「そうだ…!私は…!」

「魔力を送るぞ!」

私達の体がまばゆい光を帯び始めた。空気も闇も切断するような音が鳴り響いて、レーグに送り込まれる。勇者が自分の魔力とともに、呪いの力を全力で解き放った。

光の球が、瞬間的に一帯の光景を飲み込んだ。それが終わって、脅威は散り散りに消え去っていた。

レーグは意識を失い、勇者に背負われていた。

「脅威の力を感じない。全て終わったと見ていいだろう」

カラギさんが地上に降りながらそう告げ、私たちも安堵してそれに続いた。

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