96.最果ての未来
黒く鋭い雨をかいくぐり、レーグと同じ高さまで飛ぶ。雨は地上に着くまでに、騎馬や魔獣や竜など、さまざまに姿を変えた。
「地上は任せておけ!心配なら俺たちでとっととレーグを倒しきることを考えろ!」
私の表情を見て、アルトナがそう言った。わずかに残っていた不安を振り払うように、私はレーグを見据えた。基本的な戦い方は魔王城の地下で脅威の本体と戦った時と同じで、防御を基本にしながらダメージを与えていくというものだ。
「来るぞ」
カラギさんの声とともに、いくつもの黒い塊が鷲のような影となって直進してくる。ガイレルが前に立ってそれら全てを弾き飛ばしたが、一角獣の影が第二波として襲い掛かる。
レンデは雷の魔法を放って影を打ち払い、本体をも突き刺そうとするが、本体が濃い魔力を身にまとった防壁で自分の身を守っているせいで怯む様子がない。
それどころか、同じような電撃をレンデに放ってくる。レンデはそれを剣で吸い込みながら呟いた。
「迂闊に攻撃できないな。あれはこちらの攻撃をそのまま跳ね返す防壁らしい」
「外からの攻撃は通用しないということですか?」
シラナの問いに、兄は頷く。ユマさんが先頭に出て影を細切れにしながら提案する。
「内側から壊すのが確実で早いかもしれないな」
「つまり脅威ではなくレーグを叩くというわけか」
カラギさんが戦いながら返事をして腕を組んだ。方針こそ簡単に立っても、実行するのは至難の業だ。
「次が来るぞ!」
アルトナが叫んで全員が身構えなおす。それからしばらくは防御が続いた。最初に脅威と戦った時ほどの綱渡りではないが、私達だけが耐えたところで足元の城下町への攻撃は止まらないため、上空ですぐに倒しきることが重要になっている。自分たちへの影響よりも、周囲に対して与える影響を懸念する必要があった。
全員に焦燥感が漂っていたが、先走って攻撃すればどうなるかは目に見えている。今安定して戦うことができているのは、敵が弱いからではなく、全員が防御に徹しているからだ。
膠着状態の中、ガイレルの胸元から、翡翠色の光が僅かに放たれた。
「今なら、私が話す余地がありそうだな」
「フェイマル?」
カラギさんがガイレルから翡翠色のペンダントを受け取る。ガイレルが主な防御を担い、アルトナとユマさんがそれを支えていた。
「私は元はこの国を歩く巨人だった。歩く中で奴に似た人間が利用され、得体の知れない闇に吞まれるのも見てきた。その闇が脅威に類するものなら、私に覚えがある…勇者レンデよ」
呼びかけると、勇者はカラギさんのすぐ隣までやってきた。
「勇者の雷は精霊の光だ。その力と私の持つ破壊の力を合わせて攻撃すれば、少なくとも奴の反射能力を消し飛ばせるだろう」
「本当か!?」
「恐らくはな。問題はその後で、レーグと脅威の力を切り離すことができるかということだが…」
それを聞いて、勇者は不敵ににいっと笑った。
「できるさ。勝算はある」
「戻ってくるんだよ、フェイマル」
ガイレルが淡々と穏やかに、しかしわずかに心配が伺える口調でそう言って道を開けた。
「私はもう決めたのだ。今度は戦争の道具ではなく、己の意思で地上を歩いてみせると」
力強い答えとともに、カラギさんがフェイマルを前に投げる。レンデが雷を浴びせると、衝撃波で影を切り裂きながら凄まじい速度でまっすぐ前に飛んで、防壁に突き刺さった。
光は消え、飲まれたように見えたが、すぐに眩い緑色の攻防が魔力を吹き飛ばし、防壁を破った。
「あとは任せるぞ!私は地上に行く!」
細い緑色の光が街の瓦礫に降り、みるみるうちに他の瓦礫とも組み合わさってゆく。
「ゴーレムだと…!?」
自分で自分を完成させた石の人形は、地面に向かう影に拳を突き出して一掃した。
「グオ、お、ォオ」
球形に渦巻く魔力の中心で、人影が悶え苦しんでいる。黒い塊はなおも放たれ続けている。
「行くぞ!」
魔王の娘が言い放った。私たちはそれぞれに武器を構えて駆け出した。




