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勇者の妹  作者: 虚言挫折
第七章:帰還
95/99

95.下ごしらえ

加速魔法の力も借りて、私たちはすぐに魔王領を後にした。風景は風と速度に霞み、瞬く間に私たちに追い抜かれていく。ガイレルの首元でフェイマルがわずかに輝く。

「何か悩んでいるか、ミトナ」

「悩みというより、疑問があるんだよ。脅威はレーグに持ち去られているけど、今はどんな形になっているんだろうって。脅威は自分だけで増殖した結果、理性を失って凶暴化してた。でも本来の脅威は理性的で穏やかだった。もし、脅威を得たのがより邪な存在だったら、どれだけ恐ろしいことになるんだろうって」

静かな翡翠色の光を放ちながら、フェイマルは少し考えて答える。

「脅威は、知性が誕生した瞬間から現在に至るまでの長い時間を経てあの形になった。だが脅威の一部が魔王領から持ち去られてから現在まで、過ぎた時間は長くない。あれほど恐ろしい存在にはなっていないだろう」

「そうかな…」

「推測にすぎない。見れば分かるだろう」

私と一緒に乗っていたカロが竜の手綱を握り、竜に声をかけた。竜は空気を切り裂いて急降下し始める。私の周りの竜も同じタイミングで急降下し始めた。

「全員、戦闘準備だ。そろそろサンチマルに着く」

カラギさんがよく通る声で指示を出すと、各々が武器を構える。

「竜に相当無茶をさせている。この後は一度地上に降りるぞ」

国境の山賊たちの列の上を通り過ぎると、すぐに狼煙が上がった。続いて王城からも狼煙が上がる。

「狼煙の地点に着地する!着陸準備!」

城の先頭の近くで、遠くから見ても分かるくらい禍々しい黒い塊が浮いている。私たちはその手前の広場に降り立とうとした。

その黒い塊から、砲弾のように何かが飛び出してきた。

「僕がやる」

レンデが光を纏った剣を横に薙ぐと、巨大な刃が前に飛んで次々に黒い何かを消し飛ばしていく。十四騎の竜騎兵たちは全員着陸した。

「これは…一体」

兵士たちの先頭に、鎧をまとった見覚えのある男性が立って竜を見ていた。

「グランツ兵士長!魔王領からの援軍だぞ!」

アルトナがグランツ兵士長に歩み寄りながらそう宣言する。兵士長はすぐに何が起きたかを飲み込み、新しい戦力がどういうものなのかを確認しながら状況を説明し始めた。

「敵はあの先頭の近くに浮いている一体だけだが、奴自身の影を眷属として人の姿を取らせることができる。特に騎兵の姿のものが地上に降りれば、王都は無事ではすまないだろう」

「つまり、影を地面に下ろさずに本体を倒す必要があるということだな」

カラギさんがグランツ兵士長に歩み寄る。兵士長の背後から、メリド王子が歩いてきた。

「魔法兵を集めた。王は衛生兵に任せてある」

「地上の守りは竜騎兵にも手伝わせるとしよう」

メリド王子に向き直り、カラギさんはそう告げる。その答えを聞いて、グランツ兵士長の前に七名の竜騎兵が集まった。

「あとはあの本体を落とす方法だが、それは勇者たちに任せたい」

ちょうど竜の状態を確認し終えたレンデが歩いてきた。

「僕らが本体を攻撃するって?」

「他に案があるか?」

「とんでもない、最適解だよ」

カラギさんは勇者の返事を聞いて微笑んだ。

「竜騎兵、よく聞け」

その命令に、竜騎兵は全員カラギさんの前に跪く。

「私は本体の攻撃を上空で引き付ける。他にはレンデ、ユマ、ミトナ、アルトナ、ガイレル、シラナが行く。とどめは状況に応じて決める。お前たちの役割は地上で影を防御することだ。臨機応変に動き、私が戻るまで持ちこたえろ」

「「「「「「「御意」」」」」」」

それからメリド王子の方を向いて再び跪いた。

「今言った通り、我々の目的は防衛だ。詳細な現地の状況はグランツ兵士長から聞いてもらおう。すぐに取りかかってくれ。空中での攻撃の準備が整ったら僕も向かう」

グランツ兵士長に連れられて竜騎兵は軍隊のいる方に歩いて行った。カラギさんは残った私たちを見回す。

「聞いた通りだ。とどめ役は最も攻撃の巧みなレンデに任せるのが理想だが、他の選択肢が浮かんだら私の判断でより良いほうに切り替える。布陣はガイレルとアルトナが先頭、中列がミトナとレンデとユマ、後列が私とシラナだ。異論のあるものは今言ってくれ」

誰も口を開くものはおらず頷いた。私たちは飛ぶための魔法をそれぞれにかけ始めた。

「良い結果を待ってるよ」

「ああ、待っててくれ」

メリド王子に答えて、カラギさんは飛び立つ。私たちもその後に続いて飛ぶ。

「作戦開始!」

メリド王子が開戦の火ぶたを切って落とす声が聞こえた。

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