93.
轟音が鳴り響く。王とレーグが互いの魔法を撃ち合い、体力を削り続けている。城内の人々の避難はグランツ兵士長が上手くやってくれていると信じるしかない。
「愚鈍な王よ!民に媚び、列強に首を垂れるか!」
邪悪な雄たけびと共に、レーグは紫色に輝く電撃を放つ。
「六国という列強に媚びたのは貴様であろう、レーグ。ここまで力に堕したとは思わなんだ」
厳しい声で王が攻撃を受け止める。王は防御に徹しているため、僕は周りから魔法を放つが、それも跳ね返されていた。
『聞こえるか、グランツ兵士長』
『聞こえています』
兵士長の返事が脳内で明瞭に聞こえた。
『戦況は僕も参加して互角といったところだが、このままではらちが明かない。レーグが何か手を打つ前に封じ込めたい』
『分かりました。その周辺に結界を用意し、同時に離脱してください』
その結界も長くはもたないだろうが、大きな隙は生まれるはずだ。僕は『分かった』と言って攻撃を強めた。
「無能な王子に、ろくでなしの王!やはり頂に立つ資格はない!この私こそがふさわしいのだ!」
大きく腕を振り魔法球を五つ王に飛ばして、レーグは叫んだ。全ての魔法球を易々と空に弾き飛ばし、嘲るように王は微笑んだ。
「我々をそう見下しておきながらどちらにも決定的な一撃を加えてはおらぬ。頂に立つのではなかったのかね?」
「ほざけ!笑えるのも今のうちだけだ!」
レーグが怒鳴ると同時に僕が十本の光剣を投げつけると、これも手の一振りで消し飛ばされた。僕に向けば王への対処はおろそかになるが、王だけを見ても僕からの攻撃が飛んでくる。しかし僕たちにしても、連携が緩んだ一瞬のスキが命取りになる。
一瞬だけ周囲の空気感が変わった。結界が張られたようだが、レーグに気づいた様子はない。
「私が…!私が権力を!」
「虚妄に取りつかれたか!権力とは責任の形にすぎぬぞ!」
王が金色の光を剣に宿して薙ぎ払い、レーグはそれを避ける。結界が一瞬だけひび割れ、またすぐに修復される。
『少しづつ結界の半径を縮めてくれ』
『分かりました』
傍目では分からないくらいゆっくり、しかし確実に結界はその大きさを小さくし始める。
「貴様さえ殺せば…私は、世界の、王に…」
言葉が次第に曖昧になってゆく。呂律も回らず、レーグの意識が徐々に朦朧とし始めているように見えた。これが脅威というものの影響だろうか?
「その力をどうするつもりだ、レーグ?世界が制御できなかったほどの力をもう一度増幅させて、自分一人で制御できるとでも思ったか?だとすれば見立てが甘いぞ!」
気付けば僕の背後にまで結界は迫っていた。レーグは怒り狂って王に魔法を連打するが、王は全て捌ききった。
「メリド!ゆくぞ!」
「はい!」
僕と王は力を一点に集中させて結界にわずかに穴をあけた。
「逃がすか!」
レーグはもはやなりふり構わず最大火力の魔法を王に向かって放った。辛うじて受け止めたが、王の両手に魔法の負傷痕が刻まれた。
「くっ…!」
それでも僕たちは結界を抜け、内側にレーグだけを閉じ込めることに成功した。
「王!王子!こちらです!」
僕は王を背負ってグランツ兵士長が呼ぶ方に降りる。王は手首の付け根を渡された杖の上に乗せた。
「よくやったぞグランツ、メリド。だが…仕留めきるには手が足りないはずであろう?」
「すでに国内の軍人や魔法使いには指示を出しています。ですが…脅威の性質を考えると不安はあります」
グランツ兵士長は王に答えた。個人的には脅威がレーグの内部で増殖の気配を見せたことが気になる。あの力があれば軍隊を編成することもできるのではないか?
「兵士長!兵士長はいずこに!?」
伝令の兵士が大慌てで駆けてきた。
「空に…空に、魔王軍の竜騎兵が!」
レーグのいる方向と真逆の空に、点々と影が見えた。




