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勇者の妹  作者: 虚言挫折
第六章:脅威
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84.攻防

めきめきと、ゆっくり悪意と憎悪が花開く。管でできた球の中心から十字に裂け、内側から強熱と腐臭を纏う黄色い光が吐き出された。ねばねばした黄色い粘液が勢いよく飛び散って、付着した石畳が煙を上げる。

粘液がガイレルにも飛んできたが、手前側で緑色の光に消された。

「そうだ。そうやって防御しろ」

魔王は私たちに何重にも魔法をかけた。防御魔法、高速化魔法、攻撃力増加の魔法…。それでも、目の前の脅威に対して十分な気がしなかった。

「私はこの部屋の壁面も強化して、攻撃が外に漏れるのも防止する。というより、それで手一杯になるはずだ。誰かの指示を待たず攻撃に転じろ」

「分かった」

珍しく、ガイレルの声が少し硬い。それだけで私たちも少し緊張する。

「来るぞ」

脅威の周囲を漂い始めた霧から無数の黒い手が伸びてくる。ガイレルが左右に攻撃を流し、私とアルトナがそれを受け止める。

轟音と臭気と霧、そして予想以上の攻撃の重みに手がしびれる。

「脅威は勇者の封印を砕いた直後で、本調子ではない。とはいえ、油断するな」

「もちろん…」

息を吐き出す。耳をつんざく絶叫が脅威から響き渡り、空気をびりびりと震わせる。花びらがいくつもの管に変わり、まっすぐガイレルを襲う。手と管が交互に、暴風雨のように私たちに迫り来る。

油断していた、というよりも予想を超えている一撃が、連続で絶え間なく襲ってくる。

傷の治癒も少しタイミングがズレると大怪我になりかねない。ほぼ常に回復され続けているが、それでも何か一つのミスが命取りになる。

アルトナの様子は見えにくい。いや、見ている余裕もない。

周りの建物などに攻撃が通ってしまうのが危険なので、私たちは攻撃を回避することができず、全て正面から受けるしかない。あまりにも攻撃速度が速く頻度も高いので、カウンターを狙うタイミングがない。

一本一本ずつの手を突いて落していくが、終わりが見えないどころか途中である実感もない。

「…以前よりも強いようだ」

魔王がそう言って、同時に荒々しく息を吐き出す。

「弱点の位置が変わらないのであれば、あの中心に攻撃を加えると隙を作るはずだが…」

「中心に…?」

アルトナが息切れを起こしながら問い返した。

「そうだ。しかし…以前と同じかどうか分からない」

「確かめなきゃだめってこと?」

「その手段と機会があれば確認できるが…作れるか、森長の弟子よ」

ガイレルが地面を強く踏みしめる。

「なんとかする。シラナ」

「はい!大丈夫です!」

その声を聴いた瞬間、ガイレルは前に飛び出た。攻撃を全て私とアルトナに流し、花びらの中心で黄色く光る球体に向かって駆け出す。

球体が危機を察したようにバチバチと光り始めるが、ガイレルが躊躇う素振りもなしに勢いよくそれを殴る。空気が裂ける音が耳障りに鳴り響き、熱と光が電撃となって放出される。

「動きが止まった…」

脅威が悲鳴をあげて天井に向く。殴られた衝撃で、花びらが閉ざされた。

「来る!」

ガイレルの声と共に、手と管の全てが私たちに迫り来る。

魔王が私とアルトナに前に出るよう促し、攻撃を全て受け止める。シラナは回復魔法を魔王にだけ唱え続けていた。その拍子に一瞬だけ防御魔法が解ける。

「剥がすぞ!」

「はい!」

私とアルトナが隠された球体を覆う邪悪な花びらに何度も攻撃を加える。耐えきれずに花びらが剥がれ、すかさず力をためていたガイレルがもう一度殴りつける。

「うお…!」

先ほど以上の衝撃で、三人とも後ろに吹き飛ばされる。

「大丈夫か!?」

「なんとか…」

動きが止まった脅威に、魔王が炎を放つ。脅威が無数の火柱に包まれて一気に燃え上がる。

再び魔王に補助魔法をかけなおされ、態勢を整える。第二撃、第三撃が炎の中から迫り来る。

「これは…まずいぞ」

魔王が呟く。

「このまま同じ威力の攻撃を当てられ続けたとして、この戦闘の流れを維持できるか怪しい。膠着した状態を打開できるか分からない」

「あいつは回復するのか?」

「封印されたり休眠していれば回復するが、この状態では回復しない。だがどれだけ回復したかどうか分からないのが問題だ。何か強い力が働かなければ長引く」

「なら長期戦だ…シラナが無事ならどうにかなるはずだ」

アルトナがそう言って攻撃を受け止める。

「気は向かないがそれしかないだろうな」

頷く魔王の声は、どこか重苦しかった。

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