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勇者の妹  作者: 虚言挫折
第六章:脅威
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83.速度

二騎の騎馬が草原を疾駆する。影も地面に残さずに大急ぎで向かうのは、魔王領と人間領の間だ。

「ほかにも部下がいたんじゃないか?彼らはついてこないのか?」

「バランスを考えた結果だ。六国があの調子だと、広範囲にわたって三大国の安全を考える必要がある。そのためには人数が必要だ。そしてその人数を統御できる人材は何人も育ちつつある。一方で、森長の助言には力がある。予言が当たるとかいう意味でなく、現実的な意味を持つ。その森長の助言が、あんたを手助けしろというものだ…ないがしろにはできん。事態を考慮した際、現状と助言を踏まえた最も有効な方法は、山賊の中でも最高の実力を持つ俺が一人でお前に付き従うことだ」

彼の口調はあくまでも冷静だった。粗野で乱暴な振る舞いを見せる場合は、そう振る舞う理由があると考えてよさそうだった。

「ロナ王国で新しく女王が生まれたのが三日前だ。ミトナたちが余計に滞在するとは考えにくいから、もう出てる可能性が高い」

巨大な城壁を構えるロナ王国の王城付近を通過するとき、バーヴルが言った。

「あいつらは普通の旅人よりも進むのが遥かに早い。前に俺たちとサンチマルの首都に向かったときは、あやうく俺たちがお荷物になるところだったくらいだ。ロナ王国を出てしまえばすぐに魔王領に辿り着くだろう…あまり悠長なことは言ってられない」

「もとより、そのつもりだ…」

返事を口の中で嚙みちぎるように噛みしめる。手綱を握る手に力が入る様子を、バーヴルに見られた。

「あんた、名前をユマと言ったな?」

「ああ」

じっと私の目の奥をのぞき込む。暗いようでいて澄んだバーヴルの目に吸い込まれるようだ。

「前に何か大きな失敗をしたな?」

咄嗟に否定しようとしたが、うまく否定できなかった。心当たりがあるどころではなく、ずっとそればかりが頭の中に残っている。

「…失敗は、した」

風にかき消されそうなほど、絞りだす声は小さかった。

「そうか」

私の声に何かを感じ取ったらしく、バーヴルは追及しなかった。再び前を向いて、そこからしばらく口を開かなかった。気を遣わせたのだろうかと少し不安になったが、私も語り掛けることはなかった。

魔王領への橋には、私の想定よりも早く着いた。驚くほど静かなつり橋で、何か生き物がいるような気配もない。

その様子に違和感を覚えたバーヴルは下馬して橋を渡ることに決めた。馬はバーヴルに何か囁かれると今まで来たのと逆の方向に駆け戻っていった。眼下は絶壁と濁流で、魔物以上に容赦のない光景が広がっている。

「待ち伏せにはうってつけだな。魔族側がどういう顔で俺たちのとこにくるか分からんが、味方と考えないほうがいいだろう」

バーヴルと私は駆け出して、あっという間に橋を渡った。対岸の崖下に不自然な焦げ跡のようなものがあり、橋も急遽直されたように荒っぽい作りになっている。

「渡れたな」

「渡れた…」

私たちは似たようなことを口走った。抱えている違和感は不信感に変わり、私たちの中で膨れ上がっているようだった。

「ミトナが先に来てここを通ったという可能性はあるか?」

「人間領と魔王領の間を陸路で行き来できるのはここだけだ。その可能性はある。にしては手薄すぎるようだが…」

「ユマもそう思うか。あの橋は周囲からあまりにも目立つし、あの脆さなら簡単に叩き落せる。俺たちをさっき殺せない事情があったか、あえて殺していないのか」

考えるバーヴルが、左手の森のほうに目を移す。私も同じに反応すると、見覚えのない騎馬たちがぞろぞろとやってきた。

「まさかのこのこと橋を渡ってやってくるとはな…」

先頭の騎馬が愉悦のこもる息を吐き出す。

「人間と、その仲間の魔族か。収穫だな」

「くっ…」

私が見たことのない敵に、思わず肩の力が入る。

「我々は人間も、それに与する者も捕らえる。我々は人間を許したりせぬ」

「すぐに殺さないんだな…?」

バーヴルが怯えているような顔で、弱々しく声を出す。切り替えの早さに唖然としていると、背中を叩かれる。

私はバーヴルに倣って膝をつき武器を置く。

「降伏だ」

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