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勇者の妹  作者: 虚言挫折
第五章・魔王領
75/99

75.原点

今や騎兵は制圧されて散り散りになり、俺と目の前の魔法使いだけが戦っていた。炎の魔法はその気になれば広範囲を焼き切ることができるが、同時に焼く範囲のコントロールが必要不可欠になる。範囲さえ合わなくしてしまえばこちらのものだ。

距離感が測れなくなるように、前後を少しずらしながら剣を突いては下がり、また突いてを繰り返す。

「面倒な奴…!」

吐き捨てるように俺を睨み、魔法使いは唸る。最低限の冷静さはまだ保っているようだが、それも捨てさせなければならない。

徐々に攻撃の手を緩めながら、俺は距離を保ちながら魔法使いの周りを動く。

「どうした?動きがぬるくなっているぞ」

「…うるせえよ」

恐らくだが、魔法使いは俺が疲弊していると見ているようだ。

丁度いい。そう思わせておいて、聞くことを聞いたらさっさと倒してしまおう。幸い、もうそろそろミトナたちは追手から見えない位置に移動しているはずだ。

「貴様だけでも我々に降れ。そうすればまだ重用してやるぞ」

「分からねえな」

「何?」

俺は足を止め、武器を構えたまま魔法使いを睨む。向こうは少し気持ちに余裕が出てきたらしいが、俺は最初から怖いとも手強いとも思っていなかった。俺にとっては、人としても戦う相手としても、親父より怖い相手などいるはずがなかった。

「真実の軍ってのは、どういう理由で魔王に歯向かってるんだ?魔王がお前らに何すりゃ、こんなことになるんだよ」

視線を魔法使いの顔に向ける。魔法使いはにいっと不愉快に笑って言った。

「主義主張の違いだ。…お前は魔物がどこから来たか知らないだろう?」

何かを思い出しているようだった。俺は慎重に相手の言うことに耳を傾ける。

「魔物にも始まりがある。大元となる邪悪の塊から、魔物は生まれたとされている。我々真実の軍の長であるレーグは、善を容認する魔王の軟弱な姿勢を非難して謀反したのだ」

意外な名前が出てきて、俺の表情が変わる。その理由を勘違いしたまま、魔法使いは滔々と話し続ける。

「体の片方を人の世界に送り込み、もう片方は我々真実の軍とともにある。人の世からも攻め込めば、魔王に勝ち目などない!貴様も我々と共に…」

俺は一気に距離を詰めた。魔法使いは一瞬だけ反応が遅れたが、すぐに俺に向けて火を放つ。

「カロ!」

俺の声と同時に真っ黒い塊が魔法使いの背後から迫る。振り向いた魔法使いの顔に、骸骨の騎士が息を吹き付けて、魔法使いはすぐに昏倒した。強力な睡眠の魔法だった。

「これでいいのか?殺す必要があるのではないか?」

カロが魔法使いを縛り上げながら不審そうに聞く。

「大丈夫だろ。それに、こいつが万が一何かしらの取り引きに使えるかもってタイミングがあるかもしれないから」

「禍根を残さないか」

「その気になればいつでもこいつは殺せる。今殺すより、魔王に判断を委ねたい」

黒騎士は俺の顔を見ながら魔法使いを縛り終えた。

「慎重だな」

「俺たちは人間からの許可があっても、魔王からすれば非正規に領地に入ってきてることになる。勝手にはこいつの処遇を決められない。俺からすれば、こいつを殺して勝手な判断をしたと魔王に恨みを買う方が面倒だ」

「ならば俺がこいつを見ておく。殺すべきと判断すれば殺す」

「それがいいかもな。俺たちが責任持たなくて済む」

ずるずると魔法使いを引き摺りながら、俺たちは言葉を交わす。カロが前を見ながら俺に声をかける。

「俺にはお前が嘘をついているようには見えん。お前は、なぜ魔王軍である俺に何でも話すのだ?」

そういえばそうだ。言われて気づいたが、前ならそもそも信頼せずに会話も少ないはずだった。いつ頃変わったのか、なんとなく思い返す。

「俺の仲間がみんな、嘘つくの下手なんだよ。それに引っ張られて、気づいたら俺も嘘つくのが下手になってきたってだけだと思う」

拍子抜けしたような雰囲気のカロが新鮮に見えて、俺は少し笑ってしまった。

「…嘘をつくのが下手なら聞きたいことがあるのだが」

すぐに真面目な雰囲気を取り戻したカロが、また質問する。

「レーグという名前は俺には初耳だったが、お前は聞いたことがあるようだったな。レーグとはどういう…そもそも、人間なのか?」

「俺たちはこれまで、レーグを人間だと思ってたけどな。こいつの口振からすれば違うってことになる。レーグは今、サンチマルという人間の国で大臣をやってる」

厄介な顔を思い出しながら、俺は答える。あまりミトナに知らせたくない話だ。

「それも含めて、魔王様には報告すべきことが多くありそうだな」

カロが呟く。俺も気持ちが重いままで頷いた。

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