70.道と道標
集合地点の平原で待っていると、まずアルトナが現れ、ガイレルとカロが揃ってやってきた。
「よしよし、ちゃんと馬は三匹いるな。あとは懐いてくれるかどうかだけど」
「この子たちはみんな人懐っこいですよ。永久に私に懐いてくれないアルトナとは違いますね」
「これでも懐いてるんだよ、俺は」
呆れたように笑いながら、アルトナは自分の馬を選ぶ。既に自分の馬がいるカロ以外は全員選び終えた。
「ここからは最短で魔王様の城を目指す。森を突っ切るつもりだが、…ガイレル」
「ん?」
呑気に返事とも言えない声で答えたガイレルにやや戸惑いながら、カロが聞く。
「森は道を作ることがあるのか?」
「それは森次第だよ」
「…この緊急時にそんなことを言っている場合か?」
殺気とも思えるほどの不穏さを全身から放ちながらカロに詰め寄られるが、ガイレルは表情を変えない。
「事実だよ。自然に人や動物は敵わないんだから、ボクたちが何を言っても森の判断は覆らない」
あまりにも態度を変えないので諦めることにしたらしい。カロは私たちの方を向いた。
「森長の弟子がそう言うならそうなのだろう。できる限り直線で移動するが、迂回路を取るかもしれん」
「おう」
「はい。…あの」
進み始める黒い鎧の背中に、私は問いかける。
「早く城に行けば、私たちの仲間も見つけることができるんでしょうか」
「確実に見つかるわけではない。だが、魔王様が自分の領土に入ってくる人間を放っておくとは思えん。通常通りに人を探すよりは見つかりやすくなるはずだ」
「分かりました」
私は頭の中に一瞬だけよぎった不安を抑え込んで進み始めた。
「通してくれるよ。でも、なるべく急いでってさ」
ガイレルの目の前の森がざわめいて、広い道を作り出した。
「よかった…」
「ほっとするのはまだ早いぞミトナ。なるべく急げってことは、森を出るまで全速力だな」
「は、はい!」
「我々はもとよりそのつもりだ。先を急ごう」
「どうやらこの森に『真実の軍』が迷い込んだらしくて、森はそっちを対象することに力を注ぎたいらしい」
ガイレルが最後尾に回りながら、私たちに告げる。
「衝突するかもしれんな…警戒を怠るな」
カロが先頭で駆け出して、私たちはそれに続く。
植物は思いの外私たちのいる場所にあるものと似ていたが、所々驚くほど違うものが見える。それでも律儀に私たちに道を譲ってくれるようだ。
「森を抜けるまでには時間がかかるが、出てしまえば城はすぐ近くだ」
「時間がかかる、か…どうもそうらしいな」
アルトナが右側を向いて忌々しげな表情を浮かべた。黒い煙が上がっている。
「あんまり遠いわけじゃない。多分近い」
「そのようだ。交戦しても自分の身を守って逃げ切ることを第一に考えろ」
それぞれが自分の獲物に注意を向ける。
徐々に近づいてくる気配を、森は見逃さない。
「前方右側、斥候部隊。直進してボクらの目の前を横切る。この速度のままで」
ガイレルが言った通り、私たちの前、顔が確認できないくらいの距離を黒い群れが通過する。
「後方右側多数。道に気づいて追ってくる」
「無視だ。振り切ることだけ考えろ」
「前方右側…」
ガイレルの言葉が途切れる。何かを察知したらしい。
「どうした!」
「前方右側から何が来る!」
アルトナが怒鳴り、ガイレルがハッとして喋り出す。
「馬車一台、それを追う騎兵隊!ボクらのすぐ目の前に騎兵隊が来る!」
「正気の沙汰ではないな。余程のことがあったらしいが…道は森の出口まで続いているのか?」
「そのはずだよ」
「戦うぞ」
カロの言葉で全員が武器を構える。
張り詰めた沈黙は一瞬だった。
森が割れて馬車が道に現れ、続いてすぐ後ろ、私たちのすぐ目の前に騎馬が現れる。
「な、何だお前たちは?」
最後尾の騎兵に並走して右拳で殴りつけ、馬から叩き落とす。それに気づいた騎兵たちが一斉にこちらを向く。
「騎兵総数25!距離に気をつけて戦え!後ろはガイレルが守れ!他でこいつらを叩くぞ!」
騎兵たちが私たちに並んで攻撃してくるが、前の馬車から攻撃される様子はない。
「ミトナさん!」
その馬車からシラナが顔を出した。




