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勇者の妹  作者: 虚言挫折
第四章・ロナ
62/99

62.もう一度

俺は父の棺が山頂の王族の墓地まで運ばれるのを群衆の中から見送っていた。棺を運ぶ列の先頭には妹がいて、死後の無事を祈る呪文を唱えながら歩いている。変な気持ちになりながら俺はそれを見ていた。亡き王を慕う人々は俺が思っていたよりもたくさんいたようで、この二週間後に妹の即位式というめでたい儀式があるとは思えないほど空気は沈んでいた。直前まで体制が崩壊しなかったのもきっとそういう人たちがいたためだろう。棺が俺の前を通って、周りの人はみんなそれについていく。俺もその中にいた。ミトナ達はまだ城内にいて出発の準備をしているために遅れて参加するらしい。足取りは山の方に登っていった。

古い体制は新しい体制と置き換わる形で過去のものとなり、さほど大きな混乱を招くことはなかった。というのも、人々は王の判断が不必要な場面では自分達で整えた体制で動いてきたので、それをほとんど残すという方針で置き換わったからだ。その人々の団結が王族の混乱が招いた結果だと思うとなんとも皮肉な話ではあるが、国にとっていいのならそれで構わないのだと思うことにした。十二議会のうち半分はすでに民衆に殺害され、残りの半分は投獄されて無気力になったり恐怖心で震えていたりする。一度見に行った時、俺はそこに自分の影を見たような気になって寒気を覚えた。どこかで俺もこうなっていたかもしれない、何かあと一つ、俺がより俺に失望する要素があればあんな風になっていたかもしれないと思ったのだ。


「お兄様はやはり、私とも父とも似ておりませんね」

意識が戻った俺の横で、妹はそうぽつりと呟いた。外からは橙の斜陽が危険なほど不遜にぎらついていた。

「そうか?」

「…私は、似ていないと思います」

マリヤが俯いて言った。ミトナも妹だったはずだが、同じ妹なのに随分違うように思える。

「私だったら、自分の身を武器で貫いてまで相手を倒そうとはしなかったと思います。それくらい、内に秘めた激情を制御することなく外に放つことに抵抗がないのだと思います」

一言ずつが俺には重かった。暫く沈黙してからマリヤは俺から目を逸らし、硬い顔つきで窓の外を見た。

「あなたの母親は、私にとって恐ろしいお方でした。あの方の気に食わないことがあれば、私は手をあげられました。なぜ父があの方を気に入ったのかは今でも分かりません。ただ…」

マリヤはゆっくりと、俺にその顔を向けた。苦しみにも晴れやかさにも似た表情が微かに浮かんでいる気がした。

「あなたからは少しもあの方のような恐ろしさを感じないのです。それはあなたが父を倒した顛末を聞いても変わりませんでした」

マリヤは微笑んだ。俺も笑おうとしたが、顔中の筋肉があまりにも痛むので笑うことができなかった。

「あなたは慈悲深くて、脆い人に見えます。人から助けられながらも人を助けることができる人です。あなたには、あなたを助ける人と、あなたが助けるべき相手が必要なのです…」

俺たちは今や兄妹だった。俺はマリヤをしげしげと眺めていた。瞳の色は違うのに、奥には全く同じものがあるらしいのが不思議だった。

「頼んでみてください。ミトナさん達に、これから先も共に旅を続けさせてほしいと。私からもお願いしておきますから」

声は力強くて鋭いのに、どこか儚いままだった。

「いいよ。俺が言うから」

それを聞いてマリヤは安心したような表情を浮かべた。俺も安心してもう一度天井に向き直った。


「アルトナはどうするの?」

「アルトナ次第…です。新女王様も、アルトナの気持ちを尊重するって言ってましたから」

王の葬儀の翌日、王宮の中であてがわれた部屋で、私とガイレルはそんな会話をしていた。私たちが心の底で望むことは恐らく同じだったが、口には出せずにいた。

「お待たせしました!すいません、準備に手間取ってしまって…」

シラナがあたふたと部屋に入ってきた。神官帽がうしろまえだとガイレルに言われると、また慌てて自分のかぶりものの位置を確認する。

「ねえシラナ、君はアルトナとこれからも旅を続けたいと思う?」

ガイレルの質問にぴたっと手を止めて、シラナは既に抱えていた答えを口にしようとしていた。シラナの表情はゆっくり落ち着いていき、やがて彼女は話し始めた。

「私は…まだ皆さんと旅を始めて日が浅いですが、旅がこんなに楽しかったことはありません。今までの旅は全部、自分が生き延びるための旅だったので。でも皆さんとの旅で初めて、一緒に旅をしたいって思えるようになったんです」

シラナは神官帽をそっと頭から下ろして抱き抱えた。

「誰か一人といるのでなくて、皆さんと一緒だからこそこんなに満ち足りて、目的に挑むことができるんだと思います。だから…その、やっぱり、いなくならないで、ほしい、です」

恥ずかしさと後ろめたさでどんどんシラナの声が小さくなっていったが、思いは確かだった。シラナは神官帽をより強く抱きしめた。

「おーいお前ら」

アルトナの声がして、ドアが開いた。シラナが飛び上がって驚き、アルトナは怪訝な顔でその様子を暫く見ていた。

「あ、アルトナ…」

「どうしたミトナ?」

一緒に来てほしい。それだけなのに、心臓でつっかえて何も形にならない。アルトナはキョトンとしていた。

「…何を緊張してるのか知らねえけど、旅の準備は早いとこ済ませろよ」

アルトナはそれだけ言って踵を返した。

「俺も行くから」

そう言って扉を閉めた。私は心の中で何回も響くその言葉の意味をしばらく飲み込めなかった。そして、理解した時、勢いよく飛び上がった。三日後の出立まで待っていられるか分からないくらいだった。

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