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勇者の妹  作者: 虚言挫折
第四章・ロナ
58/99

58.嘘

「これでよかったのかな…」

アルトナは自分の挙動を訝しげに振り返りながら壇上から降りてきた。私は既に観衆の中から抜け出して舞台袖にいた。

「よかったと思いますよ」

私が言うと満更でもなさそうに「そっか」と言った。

壇上ではハリドが具体的な蜂起の手段を説明している。

「ここから先のことはいいんですか?」

「王には国民に自分の身さえも委ねるくらいの度胸がなきゃダメなんだよ。だからまあ、いいんだ。俺は王じゃないけどな」

そう言いながらも、ハリドが配布している資料をアルトナもまた手にしている。

私たちの蜂起が成功するにはまだ多くの課題が残っている。そのうち一番重要なのは、この演説が国内全域に果たして届くのかどうかだ。正直なところ私には十二議会の周りにどれだけ反対勢力がいるのか分からなかったので、この運動がどうなるかについてはいささか不安だった。

「心配してもどうしても取り返しはつかねえんだから、俺たちは俺たちのすべきことをするまでだ」

「は、はい!」

私は勢いよく返事をした。あまりにも無理やりに返事をしたのがアルトナにバレて苦笑いされた。


隠れ家に帰った後の私たちはこれから別行動だった。十二議会のメンバーを一斉に召喚して、召喚に応じない場合は強制的に連行するという物騒でしかない手段に応じることになった。議会員それぞれの領地は国内全土に散らばっており、早ければ配備しておいた軍が明日にでも向かうとのことだった。軍の中には議会員が不在の場合の行政官が控えており、召喚されたり戻らなくなった場合はその人が代わりにその領地に関することを取り仕切ることになっている。

私はそのうちの一人の領地に向かうことになっている。しかもどういうわけだか知らないが、私が軍を丸々率いることになっている。バーヴルにもっと色々質問しておけばよかったと今更後悔しながら身支度を急いで整える。

ガイレルもまた別の場所に赴いて軍を率いることになっているが、全く動揺した様子がない。本人曰く、「軍が反乱を起こすより森長が怒った方が怖い」とのことで、無礼ながらも納得してしまった。

シラナは事務作業の指揮や各所の連絡を中継する役割や負傷者が発生した場合の手当や王政側の勢力のサポートなどを担当する。…一人だけ忙しすぎる気がする。シラナ本人は震えながら「が、がんばります」と言っていたが、人に何かを委ねることを覚えるべきだと思う。


出発の前日の晩御飯の後のテーブルの周りには、私とアルトナだけが残った。天井に吊られたランタンに蛾が集って、時々黒い点がちかちかする。

「アルトナ?大丈夫ですか?」

「ああ、流石に全部が全部大丈夫ってわけじゃないけど、なんとかできそうだ」

アルトナは上を向いてふうっと息を吐いた。

「まあ…親を殺しに行くんだから、大丈夫ではないかもな」

「…そうですか」

「ミトナはどうだ?大丈夫か?」

「私よりもアルトナが心配ですよ」

「そうか」

その声は少しだけ弾んでいたかもしれなかった。アルトナはそのすぐ後、自嘲気味に言葉を続けた。

「親を殺す不貞の子か」

「アルトナ」

私は思わず立ち上がった。

「…あ、いや…すみません」

自分の口調が鋭くなっているのに驚いて、また座る。アルトナを直視できないで俯いてしまった。

「…でも、ダメです。やめてください」

「そうだな。ごめんよ」

アルトナは上を向くのをやめたらしく、声が私の方に向かっているのが分かる。

「ただ、俺がもっとまともなら…お前みたいだったら、親にどう言われても介錯なんて引き受けなかったはずだ。俺が普通でもなければ、常識もないってことは、ある意味本当だ」

「…そうですか」


「それでも、俺がみんなと冒険を続けたいと言ったら、お前は受け入れるか?」


私はばっと顔を上げた。

「え…」

アルトナは既に席を立ち上がっていた。穏やかな表情で私を見ていた。

「全部終わった時に決めてくれたらいい。だから、考えておいてくれ」

ぼうっとする私を一瞥して、アルトナは踵を返す。

「おやすみ、また会おうな」

それに返事ができないまま、私は固まっていた。

きっとみんなに相談するまでもなかった。

でも、私は追いかけて答えるべきではないような気がしてそのまま座っていた。

答えは、アルトナが言った通り終わってから告げよう。

立ち上がってランタンの灯りを消すと、その周りを飛んでいた蛾はやがて散り散りになった。

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