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勇者の妹  作者: 虚言挫折
第四章・ロナ
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57.彼は王に非ず

アルトナとハリドが早朝から家を出ようとしていたのを、偶然にも早く起きた私に感づかれた。私は自分の勘を褒めるべきか疎ましく思うべきか分からなかった。

「あ、あの…」

私は何かを言おうとしたが、何も出てこなかった。まさか自分たちがバレないだろうと思っていたらしいハリドはぴったり動きが止まって、アルトナは気まずそうにこちらに笑みを向ける。

「えーっと…来るか?」


早朝なのに、広場にはすでに人が大勢集まっていた。事前にこっそり触れ込みをしたとしても、こんな規模になる予定はなかったはずだ。

「密かに部下を放って噂を流しておいたが、こんなにも大勢になるとは思っても見なかった」

ハリドは近くの建物の影でそう言った。前日にすでに設営されていた公演台が、反対勢力に破壊されることなく残っている。

「あれが無事なのはラッキーだったな。しかし、反対勢力がどういう手に出るかわからない以上演説以外のことをするのはまずいだろう。余計な口実を与えることになるからな」

アルトナは私とハリドにそう言った。私は一つ気になってアルトナに聞いた。

「あの、アルトナ?原稿は…?」

「ん?ああ、ないぞ」

「…大丈夫なんですか?途中で頭が真っ白になったら…」

「お前じゃないんだからそんな事にはならねえよ」

「なんですか、人をそんな喋るのが下手みたいに言わないでください」

「事実だろ」

私が少しふくれた。それを見てアルトナは微笑して、小さくつぶやいた。

「見てみたいんだ。人々が一体何を考えているのか。俺の器をどう判断するのか」

その横顔には言い表すことのできない重みがあって、私はそれ以降何も言えなかった。

「アルトナ様、よろしくお願いします」

「おう」

アルトナが歩き出して、ハリドもその後ろに続く。私は観衆として見る事にした。


緊張していたはずだったが、ミトナの顔を見ていると丁度いいくらいに脱力していた。俺が背負い込んでいるのは国だけではない。ミトナたちの目的と先行きも背負っている。これまで共に旅をしてきた仲間のことも、ここで決まる。自分で考えを纏めていたつもりではあったが、腹の座った決断というにはまだ甘かったらしい。つくづく俺が王位を継承しなくてよかったと思うと、勝手に皮肉っぽい卑屈な笑みが浮かんでしまう。

俺は公演台の縁に足を乗せた。それは決して重くはない。なるべく堂々と中心の台に歩み寄る。台の前に立って正面を向き、集まった人の顔を見た。期待する者、不安そうな者、はなから信頼などしていないらしい者、刺客らしき者…。すみっこの方にミトナがいた。俺は頷いて息を吸った。

「まずは、ここまで集まってくれた事に感謝する。俺のことをどう思っているかまでは一人ずつに聞かなくては分からないが、興味を持ってくれていることは確かだ」

思っていたよりも声が出る。それに臆さないようにと、こっそり息を吸う。

「簡単に言えば、俺の目的は姫をなるべく早く女王にすることだ。それには全員の協力が必要なんだ。城の中の情報は本来易々とは表に出せないが、ここでは話しておかなければならない」

俺にはもう迷うことなど何もなかった。

「城の中の勢力は今までの王に味方する勢力と姫に味方する勢力で二分されている。この原因はサンチマルのレーグ大臣にある。レーグ大臣は部下をロナ王国に忍び込ませてこの国の情報を横流しさせようとした。これはサンチマルの王による判断ではなく、全てレーグ大臣の独断によるものだ。その部下はこの国で議会を買収して議会の選挙によって大臣となった。尻尾を掴むのは容易ではなかった。なぜなら、選挙そのものが形だけは至って公平だったからだ。公平なものに対して物言いをつけるのは王といえども難しかった。大臣はとうとう、王位の禅譲を申し出るという暴挙に出た。王はその男の化けの皮を剥ぐために、悪魔信仰を押し付けられながら王位を譲った。先程今までの王と姫の勢力と言ったが、正確には偽の王と姫の勢力との抗争なのだ。皆には偽の王の周りにいる者、つまり十二議会の奴らをひっ捕らえてほしい。俺は王を倒しに行く」

困惑が広がった。早くもその気になっている者もいれば、躊躇する者もいた。

「これはこの国だけの問題ではない。三大国と六国とのバランスの問題なのだ。六国は領土を求めてこちらを狙っている。三大国と六国は現在同じくらいの戦力を保有している。この国が崩れたが最後、サンチマルもエギルも無事では済まない」

ミトナの姿が、また目に入った。

「俺は、この国が滅んでほしくない。国民が塗炭に塗れる様を見たくない。俺自身は、この国にあんまりいい思い出はない。そもそもの生まれが人に言えないような生まれで、城には友達なんていなかった。でもやっぱり、ここが無くなるのは寂しいんだ」

今度ははっきりと息を吸う。

「俺はここから逃げるみたいに出て、旅をしてまたここに帰ってきた。その間に友達ができて、仲間ができた。…でも、何かが少しでも違ったら、例えば国同士が争っている状況下で、その仲間が殺し合う相手だったら、俺は本当は仲良くなることができた人を手にかけていたかもしれない。俺は皆にも広い世界を見てほしいんだ。押し付けがましいかもしれないけど、俺は仲間に広い場所へ、一人では行かないような場所へ連れて行ってもらった。それを、一握りの人間の権力欲のために潰されたくないんだ」

不思議と、言葉がすらすら出てくる。思っていたけど言えなかったことが形になって溢れてくる。

「皆の未来のためだなんて大層なことは言えないし、俺にはそんな権利もないけど、でも、きっと楽しいから、だから…協力してほしい」

俺は深々と頭を下げた。

罵声も覚悟していたが、広場は静まりかえっていた。

恐る恐る頭を上げる。


広場にいる全員が敬礼していた。

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