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勇者の妹  作者: 虚言挫折
第四章・ロナ
53/99

53.願い

俺たちは少しだけ見つめあった。

少し見ない間にすっかり大人になったマリヤは、薄い服を着た自分の兄の姿をまじまじと眺めた。その目が潤み始めていた。

「ど、どうして…?」

「色々あったんだよ」

どうしても見栄を張ろうとする俺の表情が、これほど邪魔だったことはない。

「とりあえず、部屋に来てください。…そこが安全というわけではありませんが」


俺たちは黙って歩き続け、三階の東側にあるマリヤの部屋に入った。マリヤが急いで部屋に鍵をかけるのを見た後も、俺はしばらくそのまま直立していた。

「俺が出て行って一年か」

「それくらいになります」

「…悪いな」

俺が言うと、マリヤは少し寂しそうに微笑んだ。

「兄上は悪くありません。十六になったら国の外で修行するというのは、ずっと前から決まっていたことでしたから。たまたま、国難が重なっただけです」

そういう決まり事があったのは事実だ。しかし、俺が現実から逃避したと言われても文句を言えないはずだった。

「…私はたくさんのことを知っています。あなたが自分の生い立ちに苦しめられていることも、八歳の時に国外で修行する約束を父と交わしたことも、迷いながらも反王政軍にいることも。そして、反王政軍が武力行為に訴えようとしていることも。」

マリヤは笑おうとしていた。それが下手で、俺も無理に笑おうとした。

しかしやはり繕うのが下手なのは兄妹で似たらしく、俺はすぐ笑うことを諦めた。

「王族は反王政軍に狙われます。私も例外ではありません。父と距離を置いているから、まだこれでも私は安全なほうです。」

「そうか」

俺たちはまた話題を失って立ち尽くした。

「ねえ、旅に出たんでしょう?」

しばらくして、マリヤが口を開いた。それに俺は少し驚いて「お、おう」と気持ちの籠らない返事をしてしまう。

「聞かせてくれる?」


それから大分長く話した。ミトナと会ってからの話を、マリヤは特に楽しそうに聞いていた。こうやって話を聞かせたことなんて今まで一度もなかったので、伝わっているかは不安だったが、どうやら面白がって聞いてくれているらしかった。一切何も言わずに、頷いたり驚いたりして反応する様子は、姫でもなんでもない年相応の少女のものだった。

一通り話し終えて、マリヤに俺が出て行ってからのマリヤの暮らしを聞くことになった。

初めは気乗りしない様子だったが、ゆっくりと話し始めた。

「あなたが王族でなくなって、王位継承権は私に移った。それからは毎日怯えて暮らしていた。」

マリヤはそこで息をついた。そして、意を決したようにまた話し始めた。

「兄上が出て行った翌日、王の様子が明らかに変わっていました。容姿だけでなく、発言や所作も王のものではありませんでした。それからはその傾向が次第に増してゆき、新しい側近を雇ったと初めて知らしめた時からは気力が失われてゆきました。ある日改めて顔を見たら明らかに痩せているのが分かるくらいでした。命令は乱雑なものになり、議会が代わりに命令を下すようになりました。自分たちの私利私欲のため、権力のために。」

マリヤはぐっと息を飲み込んで、震える声で言った。


「私は、王になります」


その言葉は突然俺の胃の腑にどしっとのしかかった。

彼女は今、自分の運命の奔流を泳ぎ始めたのだ。

「私が王になって、この国を導きます」

「マリヤ」

「兄上、決めていたんです。ずっと前から。兄上が出て行った時から。…いえ、兄上が外に出ることを願ったその時から。」

彼女の握り拳は震えていた。内側に何を握っているかは完璧にはわからない。

まるで一日中戦争をした兵士が野営地に戻ってきたみたいに、マリヤはベッドにどさっと座り込んだ。

「…兄上、お願いがあります」

「お願い?」

「はい。今、誰よりも苦しんでいるのは他ならぬ父上です。意思は狂気に浸され、意識は漫然とした霧の中にあります。…だからこそ、だからこそ」

マリヤは声を振り絞った。

「父上を…あなたが楽にしてください」

先だと思っていたことが、突如目の前に現れた。

しかもそれは、俺の身の回りの人間の願いと同じ匂いのするものだった。

「分かった」

なぜそう答えたのか説明できない。それでも俺は決めてしまったと腹を括ることにした。

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