45.太陽
事件から数日が経過し、エシトラ女王は宗教法に関する解釈を大々的に交付した。
それは「法律には信仰の自由が明記されている」という点を改めてはっきりさせ、エキリマース教信者に対しての様々な案を一気に否決、再考案することとした。そのため、城内での女王の立場は一気に盤石なものになったが、本人曰く「これまでは王が決めていた議会の面子は一般人の選挙によって決定され、また議会と王の立場は等しいとする予定ではあるが、議会側からの反発や諸外国との連携に関しての問題など、片づけねばならないものはまだまだ多い」とのこと。なんでそんなに教えてくれるのかと聞くと、
「まあまあ。これでいろいろとやりやすくなる」
そういってにこにこ笑っていた。なんだか怖い。
シラナとエミイが、私たちにあてがわれた部屋を訪ねてきた。なぜか少し小さく見えた。
「あの…お願いがあるのですが…」
「なんですか?」
「えっと…」
シラナは気まずそうに口をもごもごさせている。
「お姉ちゃんを一緒に連れて行って」
エミイが決断的な口調で言い放った。
「え!?」
ガイレルが大声を上げて、その場にいる全員の肩がびくっと震えた。
「地下のみなさんにはもう伝えてあります。エミイも、納得してくれました」
いきなりのことでアルトナも驚いているが、彼はなんとか自分の口を開いて質問した。
「そうまでして、なんでついてきたいんだ?」
「みなさんに、エミイも私も助けられました。だから、少しでも恩返しができればと思って…」
その気恥ずかしげで小さい声でも、私たちを信じさせるには十分だった。
「分かりました。よろしくお願いします!」
私が言うと、シラナは顔を輝かせて深々と頭を下げた。
「頑張ります!」
シラナが留守の間は、エミイが女王の侍従として働くそうだ。エシトラ女王曰く「エミイには気骨があり、聡明でもある。すぐに周りも目を見張るほどに活躍するであろう。あと背が低い」とのこと。背が低いことがなんで重要視されてるのかはあえて気にしないことにして、とにかく先行きを不安がらずとも良さそうだった。キルトス大臣は庶民に降格されて獄から放たれたが、すでにこの国にはおらず、各地を放浪しているらしい。何か彼女が報われるようなことがあればと、ふとそんなことを考えた。多分もう悪さはできないだろう。
私たちは出発することになった。滞在僅か八日間という予想外の短さで次の目的地であるロナ王国に向かうことになる。まだ太陽の昇らない早朝だというのに、地下街の人々とエシトラ女王が国境まで見送りに来た。ガイレルが森長の気配を感じ取ったらしいので、森長も多分来ている。女王からは、もしもの時のために国賓証を手渡された。これはエギルの国賓であることを証明するものであり、国際的な身分証明書ともなる。それを丁寧に荷物の中にしまったところで、人混みを掻き分けて森長が現れた。騒然とする人々を意に介さず話し始める。
「長くは語らぬが、この先には脅威が待っておる。しかし、君等であれば大丈夫じゃ。自分を曲げるでないぞ」
それから、シラナをじっと見た。
「君の仲間は信頼に値する。地下街の人々も、エミイもエシトラ女王も、それからミトナも、アルトナも、ガイレルも。これから先、意図せずして離別するようなことがあれば、みんなを信じなさい」
そう告げて森長はゆっくりと一礼して後ろに下がった。
次に、地下街の住民を代表して、エミイが前に出てきた。嬉しそうだったが、少し寂しさが影を落としているような気がした。
「ちょっとの間離れ離れだけど、元気でね」
「もちろん。元気でね」
エミイの目には涙が溜まっている。シラナがそっと小柄な体を抱き寄せると、エミイの肩が震えているのが分かった。エミイはシラナの首に綺麗な金色の首飾りを下げた。
「これは…」
「辛くなったら開けてみて。みんなの手紙が詰まっているから」
私が山賊のみんなからもらったものと原理は同じものらしい。シラナはうっすらと喜びの涙を浮かべながらそれに触れた。
「最後に、私から」
エシトラ女王がすっと前に出てきた。
「サンチマル国も、このエギル国も、ロナ王国とともに栄えては人類の危急に関わってきた。今回の事件に関しても、その役割は変わらぬ。そなた等は己の命を全うせよ」
そう言って、すっとシラナを見た。
「少しの間、寂しくなるな」
その顔は、滅多に人に見せない鉄面皮の裏側の感情の部分がはっきりと現れていた。綺麗で、それでいて虚しくて、誰が見ても心が焼けそうになるくらいだった。
「女王様…」
「エミイのことはしっかり面倒を見る故心配するな。…そろそろ朝日が昇る。行け」
私たちはそれから歩き始めた。
振り向かないように、泣き崩れてしまわないように、駆け戻ってしまう前に。




