43.黄金色
泥に沈む夢。
強い光に包まれる夢。
全身が焼けこげる夢。
いろんな夢は見たけど、結局自分がいなくなる夢。
私は自分が消えそうになることが、不思議と怖くなかった。
ずっとこんな夢を見ていても構わないとさえ思った。
「君には責務がある。」
「責務…?」
声が聞こえる。聞き覚えがあるような、そうでもないような。
「君自身で負うた責務が。」
私を呼ぶ声が聞こえる。誰なのか、なぜなのか分からないけど、とにかく呼ばれたのは確かだ。薄明るい光に包まれた無機質な空間は、果てしなく広がっていて、だんだん怖くなってきた。
どくどくする胸元をぎゅっと握り、頭を下げる。一人でいることが耐えられなくなり、呼吸も荒くなる。
その時突然、私の体は暖かくなり始めた。
驚いて思わず顔をあげると、もう目の前は翡翠色の光で溢れていた。
「ミトナ」
誰が私を呼んでいるのか、ようやくはっきりした。
「ガイレル」
体が温かい。
誰かの膝の上らしい。多分、エミイの膝枕だ。
音が戻り始める。より鮮明に、明瞭に。
目に涙が溜まっている。まだ目は開かないのがもどかしい。
「私は…」
「シラナを庇ったんだよ」
何かが轟音と共に崩れる音と、ヒュッと剣を振る音がした。
「アルトナは…今」
「化け物と戦ってる」
ゆっくりと目を開いた。
見るからに邪悪な植物が、いばらを振り回してアルトナを追い詰めている。アルトナはその攻撃を器用に躱してはいるが、攻撃のための手数は極端に少なかった。
ガイレルは、全身から緑の光を放ちながらおっとりと答える。シラナは真っ青な顔で私を見ていた。今にも倒れそうなその様子を見て、誰に命を繋がれたのかがはっきり分かった。
「わ、私…」
シラナの息が荒い。
「大丈夫。私はもう大丈夫」
「…ミトナ。一つ、言っておかなきゃいけないことがあるんだ」
ガイレルは少し驚いているような声で話し始める。
「僕のエネルギーの一部を移して君を回復させた。回復のためには、エネルギーを置き換える必要があったけど、僕から分離した途端に、そのエネルギーが全く違う形に変容したんだ。最も君の潜在能力を引き出す形に。」
目を見た。とても綺麗で、私が見てはダメなものの気がしてきた。
「君は覚醒した。一度魔法の深部に落下した時、そこで自分の能力の本質的な部分を見つけ出したんだ。僕のエネルギーが引き金になったみたいだよ」
体にふつふつと力が漲ってきた。体を起こすと、普段よりも周りの様子がはっきり見えた。
開きっぱなしの扉、戸惑う兵士、巨大でグロテスクな茨、シラナの顔、エミイの顔、ガイレルの顔、アルトナの顔。
「アルトナ!」
私は大声でそう呼んだ。彼は茨の悪魔からぱっと離れ、私の方を見た。
「…ミトナ?何だその黄色い光。」
「覚醒した…みたいです」
私にも理解できないことが一気に起こって戸惑っているせいでふにゃふにゃした返事しかできない私に、アルトナは怪訝な面持ちで呟く。
「なんだそのはっきりしない返事は」
「と、とにかく!私があれをやっつけます!」
意気込む私に面食らって、アルトナが思わず叫んだ。
「はあ!?できるのかよ!」
「できそうな気がします!」
そう答えると、彼は呆れたように笑った。
「ヘマしたら言えよ」
入れ替わって私が前に歩き出す。確かな足取りだ。
「死にかけの小娘一人が何だ…?体を引きちぎってやる」
苛立ちを隠さずにキルトスが茨の悪魔に命令を下す。
無数の茨が私目掛けて突っ込んでくる。
全ての動きがよく見えた。私がどうするべきかも分かっていた。
槍を横薙ぎに振り切るだけで、茨が焼け落ちた。
魔物は悶え苦しみ始め、上に乗るキルトスもバランスを崩した。
「な、何だ!何だそれは!」
私はただ歩いて近づく。
「どうしたんだあいつ…」
アルトナが絶句する。
「正しい鍛錬を長い時間積んだから、凄まじい力を持っているのは確かなんだ。でも…それだけじゃないんだ。何かこう…生来のものが」
ガイレルも驚いている。多分、アルトナはピンときているだろう。
強い一歩を踏み出して、正面に槍を突き出す。
茨の塊は黄金色の炎に焼かれて聞いたことのないくらい甲高い悲鳴をあげている。
その上に乗っていたキルトスは振り飛ばされ、窓の向こうに落ちていった。
私はもう一歩踏み込み、その窓に駆け寄った。




